先輩の基本の顔は笑顔だ。
爽やかであったり暑苦しくあったり、優しげであったり切なげであったり。笑顔というひとつの表情でいくつもの感情を表現している先輩を、とても器用に思う。1年間の付き合いがあればその笑顔がなんの意味を持つのか大体把握出来て、だから俺は確信を持って伝えた。貴方が好きだと、今日も頬を染めて愛しているぞなんて言いふらす先輩に。
先輩は大きな瞳を隠すように細めて、閉じて、

「高峯」

俺の名を呼ぶ先輩の笑顔は綺麗なんて言葉では収められないほどに美しいけれど、その笑顔は間違いなく『先輩』としての笑顔だった。ああ、死にたい、恥ずかしい。俺の恋は、俺の勘違いは見事に玉砕したのだ。誰彼構わず愛を振りまくくせに、他人からの愛は受け入れようとしないなんて。どこまでずるく、酷い人なんだろう。
美しい微笑みを湛える先輩の横で、冗談ですよと言いながら、油断したらこぼれそうな涙を、気付かれないように拭った。


71.笑顔


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