MINT

「忍、帰ろう?」
「あぁ」

放課後が始まる合図が鳴り響く。授業を
終えて真っ先に俺の教室まで迎えに来る
姿を見ては、微笑みで返した。俺、東堂
忍(とうどうしのぶ)には真剣に交際を
している恋人が居た。彼は、幼なじみの
下級生、花咲雫(はなさきしずく)だ。

「あっ! そういえば――」
「雫の漫画、新刊の発売日が近いな」
「覚えててくれてたんだ!」

そんな彼は、人気少女漫画家でもあって
毎日が目まぐるしく忙しい。だから中々
一緒に居られない。たわいない世間話を
していると、至福の一時はあっという間
で――。足を揃え、立ち止まる。すると
目の前には、雫が独り暮らしをする高層
マンションが建っている。目的地と言う
名の雫の住む豪邸に着いたのであった。

「……ちゅう、しよ?」

雫からの可愛い誘惑に自ら引っ掛かる。
最初は唇同士を軽く触れるだけで、余り
動かさずにいたが、次第に大人しいキス
では無くなった。舌を使って唇の隙間を
こじ開け、口内を愛撫する様に動かせて
温もりを感じると、唾液が混ざり合う。

「んっ……ふぅ……忍ぅ」

吐息混じりの熱くて甘い声。閉じていた
目を開けた。すると、雫の色っぽい顔や
表情が厭らしくて興奮を覚える。必死に
理性を保たせ、耐えた。本当はこのまま
抱きたい。それが俺の本心だが、雫には
大事な仕事がある。欲望を封じて我慢。

「じゃあ、またね」
「連絡する」

さよならの言葉を交わし、マンションの
中に入って行く。姿が見えなくなるまで
見送る。そして雫の実家から、目と鼻の
先にある近所の自分の家へ足を向けた。





現在、何日かご無沙汰である恋人らしく
二人で過ごす休日を満喫中。今日は雫の
家に来て居た。まだ真昼な外は明るい。

「ぉ、願いっ……電気、消して」

灯りを消し薄暗くした。ムードが出ると
二人の気持ちを高ぶらせた。淫らな雫を
抱く。静寂な部屋に喘ぎ声が反響する。

「っ……はっ、ん……ぁん!」
「ほら、また感じた。雫――」

カーテンの隙間から、陽光が差し込む。
唯一、自分だけが知る攻められて嬉しい
場所に痕を付けて一人、満足感を得ては
求められ、俺も腰を振って全力で返す。


〜♪


そんな中、携帯電話から音楽が流れた。
もう聞き飽きた着信音は、流行りの曲を
こっちが出るまで容赦なく鳴り続ける。
……いつもの事ながら、本当に間が悪い
タイミング。仕方無しに電話に応じた。

「もしもし、花咲です。はい。えっと、
今からですか? 分かりました。待って
ますね。それでは、失礼致します」

話を終え電話を切ると、残念そうに酷く
肩を落とす。相手に雫が何を言われたか
大体は分かる。どうせ、また同じ――。

「忍……ごめん」
「大丈夫。仕事、だろう?」

「うん」と悲しそうに言いながら、頷く
雫。やっぱりそんな事だろうと思った。
神様の悪戯か、はたまたラブラブっぷり
に誰かが妬んでいるのか。俺達の間には
常に邪魔が入る。もう懲り懲りだった。

「折角、忍と居られると思ったのに」

そう想ってくれている気持ちだけで充分
だ。髪を撫で、額にキスを一つ落とす。
敢えて何も言わない。決して攻めたりも
せず、それ以上は求めなかった。それに
口に出して言わなくても、分かり合える
関係なんだと信じ続けて来たのだから。

「気にしなくても良い。帰るな」
「うん……僕も下まで行くね?」

つい先程まで、行為の最中だった二人は
全裸。慌てて床に脱ぎ捨てられ、乱れた
服を身に纏う。靴を履き、急ぎだからと
非常階段を使っては、マンションの玄関
まで降りて行く。――すると、目の前に
一台のお洒落な白い高級車が止まった。

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