BLACK

「さて、と――」

図書委員の僕、吉良真斗(きらまさと)
は、主に図書室で本の貸し借りの対応を
しなければならない。もちろん、他にも
やる事はある。例えば本の整理や整頓。
几帳面で掃除が得意分野な僕だ。それは
完璧と言っても過言では無い。する予定
だった事も全て早めに終わらせた。息を
吐き、椅子に座る。そもそも図書室には
僕しか居ない状態であった。本を借りに
来る者、返しに来る者、その場で読む姿
も無い状態だ。もしも何かしろと責める
なら、どう暇を潰せば良いのか、方法が
聞きたい。――時計を見てふと思った。
少しでも時間を余す人にとって、秒針の
スピードは遅く動いて見えるのだろう。
一定のリズムの時が刻む音が、室内へと
響き渡る。不思議と気持ちは安堵した。





「……本、か」

あれから何分か経った時だった。余りの
暇さに痺れを切らし、本棚にお行儀良く
並ぶ数々の本へと意識を向けた。人間、
暇になり過ぎると些細な事でも暇つぶし
にしたいが為に、普段は気にならない事
が無性に気になり出す衝動に駆られる。
……のは、僕だけかも知れない。しかし
見慣れた筈の風景の中、何気無く視界に
入った。それは器用に見つけた、とある
一冊の小説。後に、数え切れない沢山の
種類があるのにも関わらず、手に取った
現実に激しく後悔する羽目になる。今は
まだ何も知らない。唯一の救いに思う。

「保健室はパラダイス……だと?」

題名だけで判別するのも何だが、それは
明らかに品が無さそうな官能的な匂いを
漂わせた。――そりゃ、僕も一応健全な
思春期真っ只中な高校生男子だ。正直、
興味はある。しかも背景色は黒を一面に
塗られ、ビビッドピンクの文字が目立つ
表紙には、粗筋すら書かれて無かった。
本当に小説かどうかも怪しい。不適切な
内容だと、このまま図書室に置けない。
調べる前提で興味本意も含ませ、適当に
ページを捲りながら、中身を確認した。

「こ、これは……何だ……っ!?」

予想は大まかに的中する。一つ違ったと
言えば、同性愛の官能小説だった事だ。
ご丁寧に挿し絵付きで、明らかに男同士
が濃厚に絡み合っている姿を、まさかの
カラーで描かれており、生まれて初めて
未知の世界を知る僕にとっては、やはり
刺激が強すぎた。鼻から下へ赤が伝う。

「あの吉良真斗が……ねぇ?」
「うわっ!?」

完全にバレたと、僕は悟った。何故なら
あからさまな反応、滴り落ちる鼻血と、
手にする官能小説をそれぞれ交互に見て
ニヤリと不適な笑みを浮かべる。佐伯律
(さえきりつ)、保険医の存在があった
から――。赤縁眼鏡がトレードマーク。
シャツのボタンを半分も外すと、大胆に
ざっくりと開いた服からの胸板を隠さず
見せて、上から白衣を着る意味があるか
理解し難かったが、更には金色に眩しく
輝く、チャラチャラしたアクセサリーを
身に付ける。極めつけは、全身から染み
付いて離れない煙草の匂いを漂わせた。
よりによって、大量のフェロモンだけが
取り柄えで有名なエロ教師に、この姿を
見られてしまうとは、予想外の大誤算。

「まずは、保健室で鼻血の手当てな」

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