――笠原梓(かさはらあずさ)は、俺の
クラスを受け持つの担任だ。担当教科は
英語。言わずも知れた整った顔。栗色の
綺麗で艶やかな髪。一際、目立つすらり
とした長身、授業中に発せられる低音の
甘ったるい美声は聴いた男も虜にする。
黙ってさえいれば、確実にモテる分類に
入る。但し、それは黙っていればの話。

「雫ぅー!」

教室にまで聞こえる大きな声で、とある
お気に入りの生徒の名前を呼び叫びつつ
廊下を駆け抜ける教師、それが笠原だ。

「ぅあっ! 梓ちゃん!?」
「相変わらず雫は可愛過ぎる。この触り
心地が良く、柔らかいお尻も可愛い!」

厭らしい手つきで生徒の尻を撫で回し、
何故か「梓ちゃん」と生徒に可愛らしい
あだ名で呼ばれつつも、慕われて――。

「ちょっと! 何処触ってるの!」

完璧に調子に乗った笠原さん家の梓君は
セクハラをするだけして「つい」と軽く
済ませる。爽やかな胡散臭い作り笑顔。
明らかに鼻の下が伸びていた。これだけ
不純で大胆、且つ、迷惑を目の当たりに
すると、笠原は教師と言う肩書きの皮を
被った偽物の変態野郎だと、そう誰もが
きっと、一度は疑心を抱いたであろう。

「渚、行くぞ」

俺の同じクラスの雫の恋人である、東堂
忍の怒声が廊下中に響くと、一通り雫に
対する言動を見た彼氏の忍は笠原を酷く
睨み付け、明らかにわざとらしく大きな
足音を立てながら階段を上って行った。

「もう行っちゃうの? 寂しいな〜」
「ごめんね、梓ちゃん。待ってよ!」
「おっ? 渚じゃないか! そんな所で
ボーッと突っ立ってどうした?」

つい先刻まで“雫”に夢中だった笠原は
俺の存在に気付き、スキップをしながら
上機嫌に声を掛けて来る。しかも、超が
付きそうな位に満面の笑顔。理由が俺に
会えたからじゃ無い。そんなの分かって
いた。……でも、やっぱり面白くない。

「別に」

素っ気なく返事をする。自分でも、全然
可愛いげが無いと思う。そんな俺に一番
聞きたくなかった単語を交え、述べる。

「もしかして、嫉妬してるのか?」
「……する訳無いだろ」

嫉妬なんかする訳無いじゃん。だったら
何で俺は「……」と間を空けて答えた?
――答えは既に出ていた。本当は物凄く
関係ない雫の存在までも嫉妬したのだ。
それは笠原ですら、明らかにはらわたが
煮え繰り返った俺の様子も伺える程に。

“好きだから嫉妬する”

そう言えたらどんなに良かったか。素直
になれず、言えない自分に腹が立った。

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