二人の間には、気まずい空気だけが暫く
漂い続けた。この長く、重苦しい沈黙を
先に破ったのは……やはり笠原だった。
遂に、返事を切り出される。身構えると
緊張感が俺を襲った。だって答えを知る
事になる。覚悟を決め、真っ直ぐ笠原の
瞳を見て捉えた。微かに手を震わす俺。
そんな様子が伝わったのだろう。大きな
深呼吸の後、息を吐いた口が開かれる。

「キスを辞める理由、分かる?」
「えっ」

笠原からキスを辞めようと言った理由?
――駄目だ、ネガティブな発想しか脳裏
に浮かんで来ない。俺は勝手に悩んでは
落ち込む。笠原は真剣な眼差しで、俺を
見つめて視線を逸らさず、話を続けた。

「俺、本気でお前の事が……だからさ、
もう中途半端は辞めにしなきゃってな。
要するに――俺も好きなんだ、渚が」


笠原の言葉に自分の耳を疑った。これは
疑っても仕方が無いと思う。だって、今
好きな人から告白された気がしたから。
……あぁ、なるほど。とうとう俺は、耳
までもが可笑しくなってしまったのか。

「渚、好きだよ」
「…………へ?」

二回も好きだと言われた。思わず間抜け
声を出してしまう始末。――笠原が俺を
好き?何がなんだか頭が真っ白になる。
暫く混乱したが、漸く落ち着く。冷静に
理解を出来るようになった。両思いだ。
嬉しい気持ちでいっぱいになりながらも
驚きを隠せず、動揺する。試しに自分の
頬をキツく摘むと、確かに感じる痛みが
あった。これは夢や幻では無く、現実。

「っ……笠原!」

余りの嬉しさに、俺は勢いよく抱き着く
までは良かったが……。案の定、笠原は
留め切れず、耐えられず、体制を崩して
共に二人が床へ倒れた。そんな事も構い
無く、特に気にする様子も見せず、俺へ
対して得意の英語で口説き文句を並べる
笠原。逆に今更で、歯痒くなって赤面。

「I love you, nagisa.」
“俺はお前を愛してる、渚”

「I love you through all eternity.」
“俺はお前を永遠に愛す”

「You want it.」
“俺はお前が欲しい”

「Become mine.」
“俺のものになれ”

流石、英語の教師だ。臭い台詞をそれは
それは綺麗な発音で耳元で囁くと、先刻
とは全然違う。まるで、俺という繊細な
壊れ物を扱う様に、優しく背中に腕を回
して抱きしめてくれた。そして、見つめ
合い、互いの心が通じた事を表情だけで
確認すると、そっと唇が重るのだった。

初めは苦いだけだった珈琲に、最後には
沢山の甘いミルクとシロップを加えた。

“コーヒーチョコレート”な恋。

[ 8/10 ]

[*prev] [next#]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -