※現パロ、男体化
 R-15くらい





俺はゲイだ。だがそのことを家族をはじめ親しい友人にも話してはいない。
何故って?答えは簡単だ。親友、霊夢にバレたくないから。どこから情報が漏れるか分からないのなら誰にも教えなければいい。一生の隠し事。俺の霊夢への恋心も。

霊夢はノーマルだ。この前、早苗とお気に入りのAV女優論争を繰り広げていたのを横で見ていた。アイツは巨乳が好きらしい。くそ、マジで望み0じゃないか。いや元々期待してなかったけど。でもやはり改めて実感させられるとへこむ。
気分が落ちると味覚も鈍るのか、黙々と食べていた弁当がなんとなく味気ないように感じられてしまった。今は昼休み、俺は親友兼片想いの相手、霊夢と昼食を食べている。霊夢は朝コンビニで買ってきたらしい惣菜パンを頬張りながら何やら話している。
「−−…っつーワケだ。…っておい魔理沙、お前人の話聞いてないだろ」
「ッえ、あー…、八雲先輩がまた停学くらいそうになったんだっけ?」
しまった。へこんでいたら霊夢の話を聞くのをすっかり放棄してしまっていた。アイツの話はどんなことでもちゃんと聞きたい。
「ちっげーよ、まあ確かにあの野郎また停学になりそうとかほざいてた気もするが…」
「はは…相変わらずだな」
「全くだ。それより魔理沙、今日もうち来るのか?」
「ん、霊夢が大丈夫なら」
親友という立場は美味しい。こうやって気軽にお互いの家を訪問できるのだ。下心がないと言ったら嘘だが、それを成就させる気はないので気にするな。
「オッケー、じゃあ帰り道スーパー寄っていいか?今日特売日なんだ」
「もちろん。何が安いんだ?」
「海老。これを逃す手はないね!…っと、あと今日はいいモン見せてやるよ」
「いいモン?」
「まあ何かはうちに来てからのお楽しみだ」
「勿体ないぶるなよ」
鐘が鳴った。昼休み終了の合図が鳴り響く。話に夢中になって食べることが疎かなっていた俺は慌てて弁当を胃に詰め込んだ。

「ふー…、おばさん達との激戦を乗り越えてきたぜ…」
「タイムセールはいつ見ても恐ろしくなる」
「あれは戦争だ、殺られる前に殺るんだ…!」
「顔こえーよ…」
帰り道。夕日に晒されて長く伸びた影が一定のリズムで動く。無事タイムセールという名の戦争に見事勝利した霊夢と共に家に向かう。昔から変わらない光景だ。変化を求めているわけじゃないけれど。このままでいいのだ、霊夢の隣に普通に立っていられるだけで幸せなのだ。

脱いだ靴を揃えていると今日家族いないんだ、と告げられる。所謂二人きりというヤツだがこれぐらいじゃあ動揺しない。今まで何回もあったし。
「夜もどうせだし食ってけよ。チンするだけしなー」
「それじゃあ甘えさせてもらうぜ」
2階の霊夢の部屋に移動する。窓際に設置されているベッドにカバンを下ろす。枕を引っ張ってきてクッションの代用とした。それを尻に敷くと少しだけ興奮してしまう俺はやっぱり馬鹿だと思う。
前方を見遣ると、霊夢が何やらテレビラックを漁っている。いつも通りゲームでもするのかと思っていたがどうやら違うようだ。俺たちに酷使されているゲーム機はマットの上に既に鎮座している。
「ん・・・っと、あ〜奥に入れすぎたな・・・・・・・・・・・・よし、取れた」
目的の物は見つかったらしい。そんな取りにくい場所に隠さなきゃいけない物って何なんだ。訝しげに凝視する俺を余所に霊夢は清々しく言い放った。
「一緒にAV見てみねえ?」

・・・・・・・・・え?
何を言われているのか分からなかった。AVってつまり、アダルトビデオ?思考が停止する。思春期男子なんだからAVの一つや二つ持っていておかしくない、はず。だがそれは一般的な性癖を持った男子に言えるだけで俺は違う。俺はゲイだから霊夢が言っているようなAVなど見たことがない。というか、女がダメだから見たいと思ったことすらない。だがその事実をコイツは知らない。知っていたら誘わないだろう。知らないから、こうやって今みたいに軽く誘えるのだ。どうしよう、どうしたらいいんだ。雰囲気的に嫌だとは言い難いし、何より霊夢の言うことを俺は無下にできない。惚れた弱みってやつだ。
俺がぐるぐる考えている間に、霊夢はズラっとAVを並べていく。うわ、すげーある。マジで巨乳ばっかだ、本当に好きなんだな。パッケージを細目で見る。当たり前だがあられもない女性の姿ばかりだ。少し気持ち悪くなってきたがグッと堪える。
「魔理沙ってどんなのが好みなんだ?選んでいいぜ」
「え?あ、あぁ・・・・・・そうだな・・・」
霊夢はにやにやしながら尋ねてくる。俺はなるべく、あまり胸が大きくなくて、黒髪で、目元が鋭い子のパッケージを探す。そう、霊夢似の子を。
「じゃあ、これ・・・・・・」
「ふーん。魔理沙は清楚系が好みか?へぇー・・・」
俺が苦渋の選択で選び抜いたAVを霊夢はさっさとDVDレコーダーにセットしていく。ああ、地獄へのカウントダウンが聞こえた気がした。

テレビ画面の中で男女が絡み合っている。女性の背がしなり、いやらしい声が上がる。やっぱり全然興奮しない。俺は尻に敷いていた枕を抱き締め、視界を狭くしようと試みてみた。じわじわと競り上がってくる吐き気を見てみぬ振りしながら横目でちらと霊夢の様子を盗み見る。アイツはテレビ画面に釘付けだ。瞳を見るとぎらぎらしている。男の瞳だった。それに少しどきどきした。
AV自体はそろそろクライマックスのようだ。先程よりも行為が激しくなっている。揺れる胸を見ていたら吐き気がとうとう限界まで来てしまった。俺は部屋を飛び出して隣のトイレに駆け込む。後ろから驚いた霊夢の声が聞こえたが気にしていられなかった。胃の中の物が溢れてくる。洋式トイレの便座を支えにしながら俺は嘔吐した。きもちわるい、きもちわるい。

ゼエゼエと息を吐いていると背後に霊夢が立ったのが分かった。
「おい、大丈夫か?昼変なモン食ってたっけか・・・?」
心配そうな声をかけてくる。その心遣いは嬉しかったが俺は後ろを振り向けないでいた。
「違う、」
「じゃあ風邪でも引いたか?胃腸風邪とか・・・」
「違う、違うんだ・・・・・・」
俺は動揺していた。AVを見て吐いてしまった自分自身に。気が動転していた。物事を冷静に判断できなくなってしまっていた。
だから、だからつい口から出てきてしまったのだ。一生言うことはないだろうと思っていた言葉を。
「俺は・・・お前が、好きだから・・・・・・女はダメなんだ・・・・・・」
霊夢の息を呑む音が聞こえた。

頭が真っ白になった。今、俺は、何を言った?
もう吐き気はなかったが今度は冷や汗が止まらない。言ってしまった、バレてしまった、一番バレたくなかった相手に、霊夢に。
俺の性癖を。そして霊夢を好きなことを。呼吸がうまくできない。息が詰まる。肺が悲鳴をあげている。心臓の音が酷くうるさくて瞼を下ろすことすらできない。
「・・・・・・・・・冗談、だよ、な・・・?」
恐々後ろを振り向くと俺の背中をさすろうとしたのだろう、しかしそれを叶えられずに宙に浮いた右手を握ったり開いたりを繰り返している霊夢の姿があった。表情は見えない、俯いているせいで前髪が顔にかかっている。
「なあ・・・今の冗談、なんだろ?罰ゲームとか・・・タチ悪いぜ」
冗談。冗談だったらどんなに良かったか。この気持ちが冗談だったら今こんなことになっていない。俺は何も言えなかった。本当だとも冗談だとも。足ががくがくと震えて頼りない。
霊夢が顔を上げた。だけど目が合う前に俺はトイレから逃げ出していた。震えていた足が嘘のように素早く反応した。階段を駆け下りて玄関に一直線に向かう。履き古した靴を踏み倒す勢いで履いて、扉を開けた。
「おい!!」
俺を呼ぶ霊夢の声が聞こえる。だが俺は止まらずに、そのまま自宅まで走り帰った。
もうダメだ、オシマイだ。涙が止まらない。携帯のアドレス帳を開く。博麗霊夢の文字を選択し、そして消去した。メールのデータも全て消していく。霊夢との思い出を消していく。今日、俺は霊夢の隣に立つ権利を失った。





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