彼女の傲慢なところが大嫌いだった。私が白い息を吐きながら境内の落ち葉を古びた箒で掃いているというのに、何も知らないと言わんばかりの顔で押し掛けてくる彼女が。その細い足が石畳に降り立つときふわり舞い上がる風によって、私が必死にかき集めた枯葉や小枝は周りに散らばってしまった。ちり、と微かに胸の奥の方が熱くなりつつ、私は溜め息をつき再度箒を動かす。
彼女の箒と私の箒は使用目的が違う。私は日を追うごとに薄汚れてしまう唯一与えられたこの居場所をどうにかして美しいまま保つべく今も動かしている。けれど彼女はあの澄んだ青空を翔るために己の箒に跨る。今日だけでなく昨日、一昨日も首を上に向ければ日光に照らされた黄金の髪が目に入った。見かけるたびにその表情を伺おうとするのだが如何せん逆光のせいできちんと見ることは叶わない。それでも私は彼女が笑っているのだろうと思っていた。青空に浮かぶ人影を視界から消した途端、大抵彼女は私の目の前に立っており、そして微笑んでいるのだから。手がかじかみ、感覚があるのかどうか危うい。今私はちゃんと地面に立っているのか、それすら分からなくなる。いたずらに笑みを浮かべる彼女のその目に私が映り込んでいた。そこに映り込んでいるものはこちらを見ながらひどい顔をしていた。何にそんなにおびえているのか、何がそんなに怖いのか。私の体温を下げ続ける冬特有の冷えた鋭い風が怖いのかもしれなかった。そんなことはないともちろん分かっていた。

「今日もご苦労さんなこった」

ごちゃごちゃと複雑な思考をまぜこぜにする私のことなど露知らず、彼女は穏やかにそう言う。内心形容しがたい感情を持て余していた私だったが無意識の内に「それ、昨日も聞いたわ」と返していた。ポーカーフェイスは得意だった。彼女は私のところに訪れるたびに毎回同じ言葉を私に告げる。所謂挨拶というものなのだろう。さすがに社交辞令を知らない年齢ではない。話しかけられれば一つ二つの言葉を交わすことはできる、たとえこころの内が乱れていたとしても。初めのころは適当にあしらうことが可能だった。横目でちらりと瞠るだけで彼女が縁側に腰掛けて物想いにふけていようがお構いなしに私は私のやるべきことをこなしていた。それがいつからだろう、今のように視線を通わせるようになったのは。彼女を無下に扱うことができなくなってしまっていた。ふと思ったのだ、このままの態度を取り続けていたら彼女はもう私のところに来てくれなくなってしまうんじゃないかと。一度そういう考えに囚われてしまったらもうだめだった。馬鹿なことだと分かっていても話しかけてくる彼女と少ない会話をするようになった。ぽつりぽつり落とすように話すお前の声が好きだと言われた。彼女と話すとき私はいつも緊張している。だからその声は掠れていたと思う。だがその声を彼女は好きと言った。私はひどい顔をしていた。そんな私を彼女はどう思っているのだろうか。その表情を見る限り普段と変わらない様子だがこころの奥で私を嘲っているのかもしれない。(本当に?あの魔理沙がそんなことを?)分からない。だって彼女にも内に秘めたものがあるかもしれないじゃないか。誰にも吐き出すことのできない悶々と育て続けたものが。そう、私にあるように。

彼女の傲慢なところが大嫌いだった。けれど同じくらいそれが尊いものだと知っていた。つまるところ私は自由な彼女に恋焦がれていて、それを見て見ぬ振りしていたのだ。





思慮する巫女


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