※いろいろと捏造






それは墓と呼ぶには本当にみすぼらしいもので、あまりの酷さに俺は顔を歪ませた。数個の小さな石が積み上げてあるだけのそこ。こんな場所にシュウが入っているのかと思うと、悔しくてやりきれなかった。俺は対して盛り上がってもいない土にシャベルを突き立て、抉りだした。



「君の骨って、名前の通り真っ白そうだよね」
「…骨は皆白いものだろう」

妙なことを言うやつだ、と思いつつも口には出さない。ふふ、とシュウは笑って俺から視線を逸らし空(くう)を見つめた。その目は細められていて、俺にはシュウが何を考えているのか読めない。

「わからないよ。世界中のいきもの全て調べたら特殊な例が出てくるかもしれない。決めつけで話すのは得策じゃないよ白竜」
「…何が言いたいんだ」

そんな回りくどい言い方じゃ理解できない。そもそも俺に話しかけているくせにこちらを見ないとは失礼なんじゃないのか。不機嫌になった俺の雰囲気を感じたのか、シュウは逸らしていた視線を再びゆっくりとこちらに向けた。

「…きっと僕は、君と僕自身の骨を見てみたいんだ」
「は?」
「うん、そうだよ。きっと…いや絶対。それをこの目で見なきゃ僕は成仏できない」
「…!」

思わず息を呑む。まるで何でもなかったかのように告げられた言葉。シュウは既に死んでいる、らしい。断言しないのは俺がその事実を未だ受け入れられずにいるせいだが、シュウ本人がそう言っていたので間違いではないのだろう。流石にそこまでたちの悪い冗談を言うやつではない。
少し前に、実はもう僕死んでるんだよね、と俺に告白したときと同じ目をしたシュウはあたかもそれが叶わないわけがないだろうという絶対的な確信を孕ませながら続ける。

「ねえ白竜、僕の骨、見つけてくれない?」



ざくざくと軽快な音が響く。土をある程度かき集めてから放り投げる。俺は先程よりも深くなった穴に再度シャベルを突き刺しながら、作業を手伝うわけでもなく自分の骨が入っているであろうそこをじっと見続けるシュウの表情を伺った。何を想ってこの場に立っているのか、もちろん俺には分からない。けれど気軽に手伝ってほしいと言える内容でもない作業を進めながらじんわり汗が滲んでくるのを感じていた。

唐突にシャベルの先端から硬い感触を覚える。軽く目を見開き、焦ったようにその周りを囲むように掘り進め、浮き出たそこから土を払っていく。
出てきたのは、小さな箱だった。長い年月地中に収められていたためか、お世辞にも綺麗とは言えない色に変わってしまった表面を指先だけでなぞりあげる。笑えることにその指は震えていて、心臓がけたたましく鳴り響いていることに俺は潔く気付いた。ごくりと知らず内に溜まっていた唾を飲み込んで蓋に手を掛ける。シュウの方なんて見れなかった。空気がぴりぴりしているようで痛みを感じる程だ。軽く息を吐き、俺は蓋を開けた。

中に入っていたのは今にもぽろぽろと砕け散ってしまいそうな白く小さなかけらたちであった。これが、シュウの骨。たいした量でもないそれを手の内に流し込み、もう片方の手でおそるおそる触れてみる。先程見受けた印象とは逆に、しっかりとした硬さを持った骨。それに一種の畏怖を覚える。こんな形になってまで彼は自己主張を続けているのか。きし、とシュウが立ち尽くした俺の側に歩み寄ってきた。目の前に右手を差し出され、お互い無言のまま俺はシュウの手のひらに彼の骨を乗せる。受け取ったそのかけらを静かに見つめるシュウの姿は確かに人でないように感じた。彼が地に足を着けてたっているのを不思議に思ってしまう程に。少しの間二人から視線を注がれ続けたそれは、唐突に地面の上に投げ出された。

「な……ッ?!」

シュウが、自らの骨を棄てたのであった。思わず驚きの声を上げた俺は急いで拾おうと手を伸ばす。しかしその手が触れる前にシュウの足が、その白く小さなかけらの上にのしかかっていた。ぐりぐりと踏み付けられ、仕舞には俺が使っていたシャベルで突き刺さればらばらにされていく。暫くたって、ようやくシュウによる行為が止むと見るも無残に粉々になったそれが土にめり込んでいた。彼はそこに先程掻き出した土を乗せ、自らの骨をもう一度埋めていく。

「なん、で…」
「…がっかりしたよ」

溜め息をつきシャベルまでも投げ出したシュウが頭を抱えた。落胆の色を隠さず、その顔を歪ませる。

「こんなの、こんなの僕じゃない。ふざけないで。こんなものが見たかったわけじゃない。だって、これは、ただのカスじゃないか。ごみじゃないか!」

さっきまで骨だったものが埋まった場所を睨み付けながらシュウが叫ぶ。俺は何も言うことができずに茫然としたままであった。言葉が出てこないという方が正しいかもしれない。シュウの行動に俺は度肝を抜かれていたのだ。

「こんなの僕が求めてたものじゃない。……こんなのじゃ、満足できない」

地面から視線を外し、立つこともできず、口をぽかんと開けたままの俺を睨み付けたシュウの口が動いている。俺はそれをどこか遠くの世界の出来事のように感じていた。

「まだまだ僕は成仏できないみたいだよ、白竜。僕の本当の骨が見つかるのはいつなんだろうね」

けれど確かに、その言葉に安心した俺がここに存在しているのも、事実だった。





グッバイ、
ホワイトドリーム


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某方に捧げます


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