霊夢と気まずくなってから1週間経った。その間私はずっとアリスと行動を共にしていたので何やら変な噂が広まっているらしい。どこぞの天狗野郎が流したのだろうか。今度会ったらとっちめてやる、と私が顔を顰めているとまたアリスが心配そうな目を向けてきた。

「大丈夫か、変な顔して…」
「変って失礼だな!」

そもそも私が男嫌いなことは周知の事実だというのに、流すならもう少し信憑性の高い情報を流すべきだ、と見えない相手に文句を言う。

「最近妙な噂をよく聞くだろ?私とアリスが付き合ってるとか」
「あ、ああ…」
「そんなわけねーってのになあ。どっからどう見ても友達同士だぜ?」

ぷらぷら手を振りながらアリスに笑いかけると、当の本人は私から目を逸らして足元を見つめていた。不思議に思い下から見上げるとアリスは顔を真っ赤にしながら飛び跳ねるように私と距離を置いた。

「あ、いやっ、ごめん!」
「…どうかしたのか?」

腕で顔を覆いながらものすごい早口で謝られたが、何故謝られたのか分からない私の頭にはきっと疑問符が浮いていただろう。

「その、ちょっとぼうっとしてただけで、いきなり近付いてきたから…」
「そんなん今更だぜ?でも驚かせたなら申し訳ない。ごめんな」
「いや、魔理沙は悪くないよ…」

それからしばらくアリスは私と目を合わせようとしなかった。先程見たアリスの表情が切なげだったのは、私の見間違いだったのだろうか。彼は教えてくれなかった。



呼び出されたのは唐突な出来事で、そのときの彼女が見せた表情は私にとっては初めてだったので正直胸が高鳴った。それで私はやっぱり霊夢が好きなんだなと実感することになった。断る理由もないので快諾すると安堵の雰囲気を纏わせ、霊夢は笑った。



「それで…用はなんなんだ?」

情けない話だが私は未だ霊夢を直視することができなかった。だから視線を交わすことはせず、自らの爪先を穴が開きそうなほどに見つめる。心なしか霊夢の雰囲気がぴりぴりしており、それに怯えてたからなのかもしれない。

「最近…ずっとアリスといる、わよね…」

その一言で霊夢が何を言いたいのか全て分かってしまった。こいつもあの噂に踊らされているらしい。いつも冷静沈着さが売りのこいつがそんな根も葉もない噂を信じるだなんて。私はちょっと悲しくなってしまった。しかし霊夢がこんな風に考えてしまう大元の原因を作ったのは私なわけで、何て自分勝手なんだろう。

「いや・・・あれはその、ほら私ってあんまり気軽に話せる女友達もいないし、だからそれなりに仲良いアリスといたっていうか・・・」

言ってて恥ずかしくなってきたが友人が少ないのは事実だった。そもそも女友達なんて霊夢くらいしかいない。霊夢と気まずくなったら必然的にその次に仲の良いアリスと行動を共にするのは仕方がないことだろう、と自分に言い訳しておく。まあきっと、彼女が言いたいのは男嫌いの私が何でずっとアリスといるのか、ということなんだろう。逸らしていた視線をようやく彼女に向けて、そこで初めて私は霊夢が泣きそうな顔をしていたことに気付いた。

「えっと、だから・・・」
「・・・・・・・・・私は、」

思わず言葉に詰まった私を遮るかのように霊夢の声が重なる。苦しそうな声だった。

「・・・アンタの男嫌いがなおって、それでアリスと付き合いだしたんなら、別に構わないって、そう思ってた。だって、それが普通でしょう?私たちが異常だってことくらい、分かってたもの」

ぐさりと胸に響いた。そんな風に、思ってたんだ。口には出さずとも心の中でそう呟いた。私は私が異常などとは思っていない。異常扱いする周りが異常なんだと思ってた。そして、霊夢もきっとそう思ってくれていると信じていた。私たちが愛し合っているのは普通なんだと。けれどそうではなかった。ようやく目を合わせられていたのにまた俯いてしまった。もう一度顔を上げる勇気が出ない。唇を噛み締めるが、霊夢は構わず続ける。

「でも、でもそう噂を聞くたびに苦しくなって、まだ魔理沙のことが好きなんだなあって、実感させられるのよ。おかしいって分かってるのに・・・・・・それでも好きなのよ」

最後の方は小さくてうまく聞き取れなかったが、私の顔は熱く火照り歓喜に打ち震えていた。これほど嬉しいことはあるだろうか。もしかしたら夢かもしれない。あの一週間前の絶望など消えてしまった。衝動のまま霊夢に抱きつこうとしたが、彼女から発せられた次の言葉で私は身動きができなくなってしまった。

「きっと、私はアンタが男だろうと女だろうと関係なしに、好きになってたわ。・・・・・・魔理沙だから、好きになったと、今ならそう言えるわ」

呼吸が、一瞬止まったかと思った。いや、きっと止まっていたのだろう。目前にある霊夢の瞳は強い光を宿していて、今の言葉が真実なのだと雄弁に告げている。私はくしゃりと顔を歪ませその場に崩れ落ちてしまった。いきなり座り込んだ私に仰天したのだろう彼女は心配の言葉を降らせてくる。そんな優しい彼女が哀れでたまらなかった。
私と霊夢の想いは違うのだと、まざまざと見せ付けられて足の力が抜けてしまったのだ。普通に聞いたら何て情熱的な言葉なんだろう。頭では理解しているが私はそれを受け入れられない。だって、私はきっと霊夢が男だったら彼女を好きになることなんてできない。私は女である霊夢を愛したのだ、彼女はそれに気付いていない。何て残酷なんだろう。けれど、報われない関係に終止符を打てない私が、一番残酷だった。





貴女じゃなきゃだめなの


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -