※アリス男体化






「…私が男だったら、アンタとの子供、作れたのに…ね」

ぽつりと呟かれた言葉には自嘲が滲んでいるようだった。口元を歪めた霊夢を見つめながら、私は今言われた内容を頭の中で反芻する。潔く意味を理解したとき、私の中で渦巻いた感情は悲しみだった。

霊夢が家族に憧れているのは知っていた。けれどその証を成せない私を好きだと言ったのも霊夢だった。同じ気持ちでいるなんてこれっぽっちも期待していなかったからその言葉を言われた日、私は今まで生きてきた中で一番浮かれていたような気がする。

「霊夢は…なんにも分かってない!」

私の怒鳴り声にハッと顔を上げた霊夢は驚きを隠せないようだった。当然だろう。きっと私のことを愛しているからその証が欲しいと思うことの何がいけないのだろうか。もし問われても私は明確な答えを弾きだせない。これは私自身の問題で、それを霊夢に押し付けるのはお門違いもいいところだった。不安気に視線を彷徨わせる霊夢を見てられなくて、私はその場から逃げ出した。いきなり怒鳴り付けておいて逃げるなんて卑怯すぎる、と頭の隅で囁く声が聞こえたが全て無視した。

私はいわゆる同性愛者というやつで、これは変えられようのない事実だった。正直な話、霊夢が男だったらきっと私は彼女のことを好きになってはいなかっただろう。安っぽいラブストーリーなら性別なんて関係ない、あなた自身が好き、などという表現で丸く収まるのだろうが、現実問題そんな風にはならない。私は女である霊夢を好きになったのだ。薄情者だと罵られるかもしれないがこればっかりはどうしようもなかった。



昨日、霊夢に対して理不尽な怒りをぶつけてしまった私は気まずさに耐えられず、今日一度も彼女と口を訊いていなかった。ちらちらと視線を送られているのには気付いていたが、言葉を交わす勇気が出なくて結果、喧嘩のような状態になっている。そんな私たちの様子を不思議に思ったのか、アリスが心配そうに私に近付いてきた。

「お前ら、どうしたんだ?何か今日全く喋ってないみたいだけど…」
「はは…うん、まあね…」

曖昧に誤魔化しながらへたくそな笑みを浮かべる。もちろんアリスの疑いの目はそんなことで晴れたりはしなかったが。アリスは私の数少ない男友達の一人だ。余り他人と関わりたくないと昔言っていたが私とは仲良くしてくれている。男性特有の野蛮さが一切見られない彼にだと、私の男性嫌いが反応することはなかった。そのため、アリスとはいい友情関係を築けている。

「いつもベッタリなのに…。喧嘩、とかか?」
「いやまあ喧嘩って言われたら喧嘩なのかもしれないみたいな…?」
「はっきりしないな。まあ僕は女同士の問題に口出ししないポリシーだからあれだけど…」
「いやいいんだ、心配かけて済まないな」
「あの、どうしようもなくなったら、相談してよ?できるだけ力になるつもりではいるから…」
「ははッ、ほんっとーにアリスは優しいな!やっぱ持つべきモンは友達だぜ!」

ばん、とアリスの背中を叩き笑った。衝撃で前につんのめったアリスの頬がやや赤みを帯びていた。冗談なんかじゃなく、アリスは本当にいいやつだと思う。少し人見知りなだけで、一回関わってみるとこれほど他人のことを考えてくれる人間など中々いないだろうに彼は違うということが分かる。さっきまでの陰鬱な気持ちはどこへやら、私は満面の笑みを浮かべた。だからアリスが体の横で握り締めた小さな拳に、気付くことはなかった。







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