「空がきれいだね」
「のぉー」
「って見てないでしょ」
「お前さんも見えとらんはずじゃ」
「…………」
「で、今日はどうしたんじゃ」


本当にここは誰も通らない。
放課後だからというのもあるのかもしれない。
運動場から響く声だけがこの教室に伝わってくる。
今日は部活が休みだ。
仁王の部活のことは聞かないことにする。















「…精市が好きって言ってくれた」
「…よかったな。これでお前さんの願いは叶ったわけじゃ」
「…………」
「違うんか?」


「…ごめんって…精市とは幼なじみだよ、って…言っちゃった」

「…どうして」


どうして、と言われてもその理由は自分でわからなかった。
それくらい咄嗟に出た言葉だったのか?
けど、あの時頭ではいろんなことが巡っていたからきっとそれはない。

精市が私を好きだ、と言ってくれた日から二日経った。
この二日間、私がごめんと言った癖にずっと残るもやもやしたもの。
これは自分勝手な感情だということは薄々気が付いていて、それだけども何かよくわからない。
そんな感情。
精市へのこの気持ち。
『好き』それに『大切』
それは永遠に変わらないものだと思っていた。


そんな私を見て、仁王は一つ息を吐く。






「どうせお前のことならあの日…森原に言われた言葉が浮かんだんじゃろ?それで森原に悪いと思っとる」

「…そんなことは……」
「ない?」

「…………」

「それは間違い。偽善者って知ってるか?まさにそれが今のなまえじゃ」

「偽善者…」



仁王のその言葉が胸に痛いほど突き刺さった。
仁王の言葉が鋭かったんじゃなくて、図星のようなことを言われたから、その事実が鋭かったのかもしれない。



「自分に素直になるの事が全く悪くないのが恋なんぜよ」


その瞳がとても優しくてその瞳に心が温められた気がした。


「…仁王もそんなこというんだね……」
「まぁな」


仁王は私の頬に落ちた涙を手で拭ってくれた。


「仁王こんなにもイケメンで優しいのにどーして彼女できないんだろうね…」


笑いながらそう言うと彼は少し微笑んだ。


「俺は待つ側じゃからな」


そして椅子から立ち上がると教室のドアのところまで私の手を引く。

「あとはお前さん次第」

一つ頷くと私は空き教室から飛び出した。





「なまえちゃんいくよ!」
どこへ行くにも彼はいつも私の手を引っ張って行ってくれた。
その手はとても安心できて、でもいつも見えるのは背中ばかりだったんだ。
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