「あ、」
玄関を開けると調度隣の玄関も開いた。
隣を向くと目が合うわけで。
「おはよう」
そうお互い挨拶をする。
このまま一緒に行かないのもおかしいから、駅までの道程を隣に並んで歩いて。
定期を改札に通して階段を降りて電車を待つ。
たわいのない会話を続けて電車がきたら乗り込んで。
日常のようで日常ではないこと。
何年ぶりかの日常。
回りに立海生がいなくてよかった。
私は心からそう安堵した。
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「あれ?幸村先輩」
いないと思ったのに。
急に現れる見慣れた制服。
彼は私も知っている人だった。
「赤也」
そう、切原赤也。
私達より一つ下のテニス部員。
精市繋がりで顔を合わせたことがある。
赤也君は私と精市を交互に何度か見ると躊躇いがちに言葉を口にした。
「幸村先輩、なまえ先輩と付き合ってるんスか?」
その言葉に顔がほてったのがわかった。
精市はどんな表情してるんだろう。
隣で息を呑む音がしたとき、
「精市が私と付き合うわけないでしょ。私とはただの…ただの幼なじみなんだから」
精市が話すより先に自分から声をだした。
精市に認められるより自分で認めたほうが気持ち的に楽だし。
「こうゆうふうに勘違いされるのもなんか悪いから私先行くね」
精市と一度も目を合わさずにその場から速歩きで立ち去った。
しばらく歩いてから後ろからテンポの速い足音が聞こえた。
まだ早い時間帯。
誰にも擦れ違わなかったからきっと…。
「待って!」
腕を捕まれ振り返るとそこにいたのはやはり精市。
赤也君の姿は見当たらなかった。
「赤也君と一緒に来ればよかったのに」
「なまえ」
「勘違いされたら精市困るでしょ」
「困らない」
その言葉に耳を疑った。
精市の目を見るとその目はまっすぐ私を捉えていて私はすぐにそらしてしまった。
「冗談でしょ…」
「俺はなまえを幼なじみだとは思えない。なまえがただの幼なじみだと思ってても」
「…どうゆうこと」
「好きなんだ、なまえが」
驚きのあまり言葉がでない。
数年前から願って叶わないと思っていたことが彼の口からいとも簡単に出された。
このまま私も、と言ってしまえば私と精市は両想い。
私の永年の想いが実る。
けれど
「…お願いっ……精市君の事…、好きにならないで…っ」 なぜ今この言葉が出てくるんだろう。
もう柚月ちゃんと精市は別れた。
だからもういいはずなのに。
「ごめん…」
私の口から出た言葉は謝罪。
違う、こんな言葉をいいたいんじゃない。
私が言いたいのは…っ。
「精市とは…幼なじみだよ…」
喉が締め付けられるように痛い。
どうして自分に素直じゃなくなるんだろう?
理由が自分でもわかってない。
「そっか…」
精市はまたあの声を出した。
その声を聞いて私も泣きそうになった。
そして精市は私の頭に手をおく。
これも精市の癖。
「学校行こ」
歩く距離はさっきよりも広がった。
私は幼なじみという関係も壊してしまったのかもしれない。
私はこんなに素直じゃなかったんだな、って初めて知った。
だって、精市が彼女と仲良くしてると普通に胸が痛くなるくらい素直だったから。
でもそれは自分自身になんだよね。