「…どうゆうこと……?」

幸村精市が別れた。

そんな噂を聞いたのは学校についてすぐのことだった。













「なまえ…」


振り返るとそこに立っていたのは仁王だった。
仁王の顔に驚きの表情は見られない。


「精市、別れたって……」
「…あぁ」

「でも…精市は柚月ちゃんとすごい仲良かったし…、もしかしたらこの噂もデマかもしれないよね…。…きっとそうだよ」

「デマなんかじゃなか」


仁王の言葉が何かに突き刺さる。

「精市から…聞いたの…?」

そう尋ねると彼は一つ頷いた。





今この噂を聞いて込み上げる感情は何故か喜びではなかった。
何かはわからないけど喜びではないことは確か。


「精市の所に行ってくる」

私の口から出たのは淡々とした声だった。


「何するんじゃ」
「精市に話しに行くの」
「話してどうするん」
「…怒る」
「おかしいじゃろ」


仁王は私の頭を一つ叩き「少し時間をあけんしゃい」と言うと自分の教室へ戻っていった。

私に残ったのは回りのざわめきと自分の中に生まれた静寂だけ。






落ち着くんだ。
少しパニックになっていたのかもしれない。
だからこそ……―――



「なまえー!!おっはよー!!」
後ろから聞こえる友達の声。




精市からフッたのかな?
それとも柚月ちゃんからかな?
どっちでもいい。
精市はあんないい子を逃したんだ。



「おはよ」



馬鹿じゃないの?って言いたい。あんな子そうそういないよ?って。



「なまえ、どうしたの…?」
「え…?」
「……泣きそうな顔してる」



精市と私は幼なじみだ。
それには何の変わりもない。
何か大きな事でもないかぎり揺るがない真実。

だからこそ…。
だからこそこの真実はとても大きな壁であって、その壁が私を圧迫している。


どうして口にだして言うことが出来ないんだろう。
声に出せばすぐなのに。


もう精市には彼女はいないんだよ?
何してるの?


「…違う…っ…」



この感情はなんて言うんだろう。


喜びでも悲しみでもない。
ましては怒りでもない。

初めて抱いた感情。



私は偽善者だ。



「幸村君に彼女できたんだってー」
精市に彼女ができた時もこんな感じだった。
その時の気持ちは嫌になるくらい覚えてる。
誰だろうねー、って言いながらなんとなく予想はついてたんだ。
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