「サボっちゃったのぉ…」
「ねぇ…」
コーヒー片手に二人であまり使われてないほうの校舎の空教室に居座る。
回りに人はおらずとても静かだ。窓から入ってくる日差しが暖かい。
「ねぇ、仁王」
「なんじゃ?」
「世の中って不公平だよね」
「…そうかの」
「歪んだからかな、私の考えが」
「考えすぎなんじゃよ。もっと楽に生きんしゃい」
目線だけ仁王に向けると仁王は笑ってた。
仁王は常に口角を上げてるけど、何かそれとは違う。
何て言うんだろう…
上手く言葉で表せない。
「半周回ってみたら新しい物が見えるかもしれん。何も見えんかもしれん。でも半周視界を回わしたほうが楽だと思うぜよ」
「ちょっと難しい…」
「とりあえず目線をずらせって事じゃ。世の中幸村だけが男じゃなか」
「そう簡単にずらせたら苦労してない」
「なんで楽な方に逃げん?」
「………」
「って、そんなつもりなまえにはないんよなー」
仁王はポケットに手を突っ込み飴を取り出した。
包み紙は無地で黄色。
「何味じゃと思う?」
「…レモン?」
仁王は包み紙を開け飴を取り出した。飴は赤色だった。
「リンゴ?」
そう聞くと仁王はそれを私の口に当てた。
私はそれを口にする。
「…トマト……」
「正解なりー。マー君それ嫌いじゃからやる」
「包み紙黄色かったのに…」
「飴は赤かったぜよ」
「トマトだとは思わなかった」
「幸村はトマト好きじゃな」
「……うん」
「知っとったか。まぁ幼なじみだしな」
急に目頭が熱くなる。
鼻がじーんとなって、喉元が締め付けられて。
視界がぼんやりする。
「…諦められるわけないじゃん…」
呟くと喉の何かが取れた気がした。
涙と共に言葉が零れる。
「幼なじみって辛い」
全部吐き出してしまえ。
それで楽になるなら。
我慢なんてできないよ。
私そんな綺麗に成り立ってる人間じゃないし。
あの子とは程遠いの。
だから、不公平とかじゃなくて。
「幼なじみって特別でしょ?だから…幼なじみでいい、幼なじみでいいって思ってきた」
仁王が何も言わずに背中を擦ってくれる。
コーヒーの缶に涙がつたった。
「けど…私そんな強くないし」
「よろしくね、なまえちゃん!!」 初めて会ったのは3才の時だった。
同じ年の子が隣の家になってとても嬉しかったのを覚えてる。
それがこうして悩む原因。
けど、思い返してみれば精市と幼なじみで嫌だったことなんてないんだなぁ…