あれはいつだったのだろう?
木漏れ日が眩しい。
紫色の花が風に揺れていた。
手を伸ばせば触れることができる距離。だけど触れたらきっと壊れてしまうから。手を伸ばす途中で諦めた。
夢だったかな?現実だったかな?
あれ、私こんなんも曖昧になっちゃった…?
「おはよう」
「おはよー…ってあれ?弁当箱変えた?」
「ううん、これ精市の」
「ほうほうほう。幼なじみの特権ってやつですな?」
「止めてよー」
弁当箱を机の上に置く。
朝練の時には会えなかったから教室に行かなければならない。
昼休みまでに渡せればいいかな?でも、まだ今から時間あるし…。
「…ちょっと渡してくるね」
「いってらっしゃーい」
弁当箱片手に教室を出た。
季節と温度が合ってない。
「…しっかりしてるくせに…何でこうゆうとこ抜けてるの……」
「…なまえ?」
体を反転させるとそこには、彼がいた。
この弁当箱の持ち主。
高くもなく低くもない声。
ゆるやかにウェーブした青い髪。
何もかも見透かすような茶色の瞳。
そのすべてが私の心を揺らす。
「頭…怪我してなかった?」
「あ、うん…。大丈夫だったよ」
口角が上がるのが自分でもわかった。目も細まった。
「ちゃんと病院行った?」
「行ってない」
「なんで行かないの」
「なんでって…大丈夫だと思ったから?」
2年前までの光景と同じようで違う光景。
変わったのはお互いだ。
変わらないものなんてあるはずない。
変わらないものなんて信じない。
期待するのが怖いから。
違う。
期待して裏切られた感情が怖いから、だ。
「これ、弁当。おばさんから」
「……あぁ、ありがとう」
「じゃあ」
精市に背を向け歩きだす。
一歩一歩踏み締める。
歩いても歩いても進んでない気がする。
廊下が長いのは変わらない。
変わらない?
変わらないものもある…?
「なまえ!!」
精市の声だ。
今振り返ったらいけない。
こうゆうお話よくあるよね。
声をかけられても振り返っちゃいけないよ、と注意を受けても、いざとなったら振り返ってしまう。
振り返ったらもう戻れないのに。それを教えてもらったのに。
人の親切を無駄にして。
振り返ってはいけないよ。
そう言われたなら振り返ってはいけないのだ。
「ありがとう!!」
振り返ってはいけない…
「っ…うん……」
振り返るわけにはいかない。
だって、振り返ったら…
こんな声をする時の精市が、どんな顔をしてるかなんて知ってるから。
何年一緒にいたと思ってんの?
そうゆう声する時のあんたは……――――
頭をくしゃりと撫でられる。
はっ、として顔を上げると見慣れた姿。
長いと思っていた廊下も以外と短かった。
「よう、…頑張ったな」
「…仁王っ」
そうゆう声する時のあんたは……――――
目を細め、歯を見せながら、思い切り心の底からの笑顔を見せるんだ。
「精市、くじ運よすぎ…」 くじを引くと必ずと行っていいほど精市は上の等だった。
私はくじを引くのが怖かった。
今でも引かないかな。
なんとなく私、くじ運悪そうだもん。