神様はいじわるだ
「大丈夫!?」
教室に戻るとまず朝一緒にいた子達が駆け寄ってきてくれた。
仁王はそれを見て一つ笑い、自分の教室に帰って行った。
「うん…、大丈夫」
「本当心配したーっ」
「ありがとね…。気が付いたら保健室だったんだけど…」
「幸村君が運んでくれたんだよ」
仁王から聞いた話と同じ…。
「幸村君すごかったんだよ!!」
「…すごかったって……?」
そう聞くと頷いて話し出す友達。
「なまえが倒れた事に気が付いたら血相変えてすぐに来てくれてね。俺が連れてくから、って言ってなまえ抱き抱えて歩いて行ったの!!もう本当王子様だよ、あれは!!」
私は昨日ひどい事を言った。
元に戻ろうとしてくれた精市を自分の勝手で離した。
そんな私に精市は血相を変えて走ってきてくれたらしい。
元に戻せられないところまで逃げ出すのは私。
追い掛けて来てくれる精市との距離を引き離すのも私。
「…そっ…か……」
手にはコーヒー。
いつ飲もうか。
お金返さなきゃな。
前までの私はこう理由を作っては精市に会いに行った。
会いに行く理由がほしかった。
会いたくて、
話したくて、
笑顔を見たくて、
そう願ってた。
「次体育だけど…休んだほうがいいよね?」
「うん、見学しとく」
「そっか。じゃあ着替えてくるね」
みんなと更衣室前で別れ一人運動場で待つ。
隅の花壇に腰掛けて見学した。
もちろん一人。
今は一人がよかったし。
「あっ、みょうじさん!!」
振り返るとそこにはさっきも聞いた声。
「こんにちは。…頭、怪我してませんでしたか?」
ニコリと笑う精市の彼女だった。
「…あ、うん。ありがと…」
「私も倒れた現場見てて、…本当なんともなくてよかった」
笑顔が似合う彼女はいつも笑顔で。
私もそれに合わせて笑ってみたが、きっと愛想笑いよりひどい笑い方だ。
「…授業は?」
「私今日日直で、数学の先生に頼まれて教材室まで行くところ。日直って嫌だよね」
「そうなんだ…」
そう言うとあはは、と彼女は笑ってそこからしばらく沈黙が続く。
沈黙するならここから立ち去ってくれればいいのに。
この子は精市の彼女ってだけ。
本当にいい子。
だけど、
それでもこの子の前では嫌な自分になってしまいそうだった。
この子は精市の彼女、ただそれだけなのに。
「…みょうじさん…」
顔を上げると彼女は私に横顔を向けていた。とても真剣な顔だった。
「精市君の事どう思ってるの…?」
気づいてる…っ?
返事しなきゃ…
でもどうやって……
何を戸惑ってるんだ…
"好きじゃない"そう言えばいいだけ…。
息を大きく吸いかけたその時。
「…お願いっ……精市君の事…、好きにならないで…っ」
泣きそうになりながら私にそう言った彼女。
「こんな事言うのはおかしいって分かってる…。……ごめん…ね…。おかしいよね…っ……」
泣きそうになりながらも笑顔を無理矢理浮かべる。
これはどうなんだろう。
私は………
「うん。好きじゃない。ただの幼なじみだよ」
ただの。
そう。
ただの幼なじみ。
好きじゃない。
全て気のせいだったんだ。
「柚月ちゃんみたいな彼女がいて精市は幸せだね…」
何言ってんだ私。
少し下を向く。
「このチョコは本命?」中学2の時のバレンタイン。
精市は笑いながらそう言った。何言ってんの、そう私も笑って言った。
素直に「好き」って言えてればよかったのに