「……ん……」
眩しい。
なんかデジャヴ。
また朝?
違う。
ここは、
「…保健室………」
どうやら私はあのまま気を失っていたらしい。
今は何時くらいなんだろう?
体を起こした瞬間、扉が開く。
そして、私は反射的にもう一度ベットに潜ってしまった。
シャーっとカーテンを開く音。
ギュッと目をつぶる。
「…まだ寝てるか」
高くもなく低くもないよく通る声。
精市だ。
どうして?なんで?
私の事?
………だよね。
この静寂だから私と精市意外誰もいないんだろう。
じゃあ余計にどうして?
精市はそのままベットの隣の椅子に腰掛ける。
そっちに背を向けててよかった。
もし顔を向けてたらこんなフリ出来なかったと思うし。
缶の開ける音がして、紅茶の匂いがした。
精市は紅茶が好き。それは昔から。
私も紅茶が好きだった。
いや、紅茶を好きな自分が好きだったのかな?
好きな人が紅茶を好きだから、ってだけで好きになる単純な私。
単純な理由。
実際はコーヒーの方が好きだったり。
「………ごめん」
長い沈黙の後精市はそう言った。
なんで謝るの。
昨日勝手すぎたのは私の方じゃない。
精市が謝る必要なんてどこにもない。
「今まで通りでいられない、って言われた時…傷付いたし、疑問も持った。俺の隣にはなまえがいて、なまえがいるのが当たり前で。
……いつから当たり前じゃなくなったんだろうね…」
精市は小さな声で話し続ける。
「小さい頃とは何一つ変わらないと思ってた」
こうゆう声をする時の精市はいつも同じ泣きそうな顔をして、だけど涙なんか浮かべず、やるせなさそうに笑うんだ。
最後にその顔を見たのは中三。
精市が入院している時だった。
どうにかしてあげたくて、無理矢理明るい事ばっか言っていた。
精市はそれに気付いてて、あの顔で"いいよ"って言ったんだった。
「大切なのになぁ…」
"大切"
私に向ける言葉はそれ。
あの子に向ける言葉もきっと"大切"
…それに"好き"。
「精市君」
突如、扉が開き女の子の声が聞こえた。
多分この声は、
「…柚月。…どうかした?」
「…みょうじさん大丈夫?まだ起きないって聞いて…。
頭にボール当たったんでしょ?頭って大事だからさ…」
ボールが当たったのか。
ぼーっとしてて避けれなかったんだ。
何考えてたんだっけ。
「あと、先生が精市君の事探してたよ。みょうじさんの事心配だと思って、精市君は忙しいです、って言ったんだけど、何か急ぎの用みたい」
「そっか…。じゃあ行かなきゃね」
「みょうじさんは大丈夫?」
「それなら俺が見とくき」
仁王の声がした。
仁王は優しい。
多分今も私と精市の事を分かってる。
「…じゃあ、よろしく頼む」
「ん」
また扉の開閉音がした。
カーテンが開かれ仁王が入ってくる。
「ほら、起きとるんじゃろ」
背中をべしべしと叩かれ、仁王の方を向く。
「本当に起きとったんか」
「さっきまで寝てたよ」
「頭にボール当たったんじゃて」
「気失ってたみたいだね」
「お前さんをここまで運んでったの誰じゃと思う?」
「…友達」
「違う。……幸村ぜよ」
「…っ」
私の顔が一瞬強張ったのを仁王は見逃さなかった。
「話ならいつでも聞くからな…」
ふ、と手に何かが当たる。
それは多分精市が置いていってくれた、コーヒーの缶だった。
「何飲む?」そう聞かれると精市の手にあった紅茶が目に入って、私も紅茶って言った。
いつも飲んでるコーヒーより甘い香りがして精市っぽいなって思った。