もしも雨が止んだなら… | ナノ
44話

一定のリズムを刻む精市の心臓。

お願いだから。
早く、目を覚まして。

精市が刺されてから何日たった?
記憶が曖昧だ。

「……ご…め…」


精市の口が微かに動く。

「精市?」
「……ご…めん…ね…」


『ごめんね』
確かにそう呟いていた。


「謝るならちゃんと目覚ましてから謝ってよっ……!!」

これで目を覚まさなかったら何も精市に聞けない。
話せない。
目を覚ますと信じていても一人になると積もるのは不安だけ。
早く目を覚まして隣に座ってよ。
声を聞かせてよ。


「…私……何にも言えてない………」








「……なまえ………?」


ゆっくりと開いた精市のまぶた。

「……精市っ?」
「…よかった……。…俺…生きてた……」
「……神の子がそうすぐ死ぬわけないじゃない」

そう言いながらも心ではもしかしたら目を覚まさないかもなんて思った時があった。
知らずのうちに涙が頬をつたう。
ゆっくりと精市の手が私の頬に伸びる。
あの時と同じように、私の涙をぬぐった。

「…また……泣いてる……」
「………また?」
「…いっつも……俺のせいで…泣いてる気がする……」

そう言って精市は目を伏せた。
今、目を伏せてしまったらもう精市は二度と目を覚まさないんじゃないか、という恐怖に駆られ精市の手を握り返す。
すると精市は驚いたように目を見開いたが、すぐに目を細めた。


「………ごめんね……。俺…なまえの事守れなかった…。…けど……もうわかったんだ」


精市の覚悟を決めたような瞳が好きだ。
全てを吸い込んでしまいそうな瞳が、きりっとして目の色が変ったって表現するのが正しい。

「…大切な人ほど…手放しちゃいけないんだ」
「精市…」
「こんな俺でもいいって言ってくれるなら…もう一度…チャンスが欲しい」
「…チャンス……?」

ふっと微笑むと彼はこう言った。


「…うん………。もう一度……俺と付き合ってください……」
「……!!」
「俺は最低な奴だ。……なまえの事を好きなんてそんな事いえる資格ないかもしれない……。けど…、なまえを守りたいと思う、好きだって思う」

真っ直ぐに私を見つめる瞳。

「俺をいつも傍で支えてくれてたのはなまえの存在なんだって改めて気づけた……」

私だって精市にいつも助けられた。
精市の存在に支えられた。

「……好きだ…。もう一度…俺の傍にいてくれないか…?」


答えはもう出ていた。
迷うことなんてない。








「うんっ…」





雨が降ったのは一時で。
病室から出る頃には雨は止んでいた。
雨が降っていたのが嘘のように晴れ渡った空。
きっともう一度やり直せる。
そんな空を見上げ私は歩きだした。



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