もしも雨が止んだなら… | ナノ
39話

仁王SIDE

なまえはゆっくりと目を開いた。
あ、この目どこかで見たことある。
何かを決心した時の誰かの目と似てる。


「…苺加ちゃん」

なまえの声を聞くと麻原はびくりと震えた。

「…先輩っ……」
「苺加ちゃんは精市を刺した」
「…違っ……あたしは……―――」
「罪を認めようよ」
「…っ…」


「確かに苺加ちゃんに精市を刺すつもりはなかったのかもしれない。けど、結果的に刺して精市は病院に運ばれた。…精市に謝りにいこう?」


なまえは優しく微笑んだ。

「……先輩は……なんであたしにそんなに優しく接しられるんですか?」

若干震えながらポツリと漏らした言葉。

「………」
「あたしはっ、先輩を陥れたんですよっ?先輩と幸村先輩を引き離したのもあたしですっ!!なのにどうしてっ!!!」

突如、
談話室に響き渡った渇いた音。
麻原が頬を押さえる。
なまえが麻原を叩いた。


「…私も今苺加ちゃんを叩いた。これでお互い様でいい?」

目を見開く麻原。
本当になまえは甘いと思う。
けど………
そうゆう奴じゃ。


「………っ……」


「おいっ」

話に割いたのは跡部。

「…車の手配ができた。」

なまえは麻原を見てからもう一度だけ話しかける。


「ありがとう、苺加ちゃん。…知ってたよ。普段の部活でさ、私がドリンク作るとき、粉がきれたことが一度もなかった」
「…っ……」
「全部苺加ちゃんがなくなりそうになったら買い足してくれてたんだよね?」

優しい笑みを浮かべながら麻原に語りかける。


「合宿出発するとき荷物出しておいててくれたこと。みんなの部屋の掃除とかシーツ替えとか使用人さんに頼んでやっててくれたこと。
コートに夜もう一度行って用具を点検してくれてたこと。みんなの体調とかをしっかり苺加ちゃんは苺加ちゃんで取っててくれたこと。
他にもたくさん知ってる。
苺加ちゃんはすごく頑張ってくれてた」

「ありがとう。私は苺加ちゃんのこと、ずっといい子だって思ってたよ」


なまえはそれだけ言うと跡部のほうを振り返り歩き出した。
跡部は一度だけ俺のほうを向き、視線をなまえにずらすと廊下へ出て行った。
それに続くようになまえも部屋を出て行く。

麻原は下を向き黙り込んだまま。
床を見ると水滴が1粒1粒、零れ落ちていた。

「………っ…」

麻原は顔を上げると廊下へ飛び出す。










「なまえ先輩っ、ごめんなさいっ。…先輩のこと本当に尊敬してましたっ!!!大好きでしたっ…!!!」



なまえは振り返り一瞬驚いたような顔をしたがすぐに微笑んだ。
そして廊下の角を曲がり見えなくなった。



「…なまえ先輩も、幸村先輩も同じこと言うんです……」
「…………」
「あたしなんかが入り込めなかった」


その言葉は俺の胸にも重くのしかかる。



「あたしは最低なことをしました…。許してもらえるとは思ってません…。……ちゃんとみなさんにもあたしから話しますから…。それが今のあたしにできる一番の償いです……」


そう言って麻原は出て行ったが、俺はしばらくそこに立ち尽くしていた。






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