もしも雨が止んだなら… | ナノ
35話

「…っ………」
「幸村っ!!!」

ドアを開けた瞬間。
広がったのは真っ赤にそまる風景と血の臭い。










たしかこの部屋から音がした。
物が倒れただけかもしれない。
そうじゃなくて、私達が望むのは中に赤也君か苺加ちゃんがいること。
ドアのぶに仁王君が手をかけた瞬間、

「幸村部長っ!!!」

そんな切原君の声が聞こえた。

幸村……?

「……幸村だぞ…?」

あの日聞いた名前。





仁王君は勢いよくドアを開けた。
開けた瞬間広がる血の臭い。

「…っ……幸村っ!!!」


今私の目の前にある光景が信じられない。
緩やかな青いウェーブの髪型をした人。
その人の腹部あたりから滴る血。
その刺さるナイフを持つ苺加ちゃん。

「…え……嘘っ……」

苺加ちゃんは持っていたナイフから手を離す。
その途端刺された人は膝から崩れ落ちた。


「…てめぇ!!!何してんだよっ!!!」
「……違っ…………!!」

赤也君が苺加ちゃんに怒鳴りかかる。

何が起こってるのかまだ頭の中で整理できてないまま『幸村』さんに近寄った。
そして無意識に『幸村』さんの手を握る。

「…なまえっ………」
「赤也君、跡部君に頼んで救急車呼んでもらって」
「……わかったッス」
「……っ………」



「幸村さん、大丈夫ですか?」
「……ははっ………っ……ほん…とに……忘れ…ちゃって…る…………みたい…だね……」
「……ごめんなさい…」



何も思い出せない。



「フフッ………。しょうが……ないよ……。…俺は……最低なこと……したんだ…から」


最低なこと……?



「でもね……」

『幸村』さんはゆっくりと手の平を私の顔に近付けた。


「…もう一度だけでいいから……なまえに……ちゃん…と……伝えたかった………」

儚げに微笑む『幸村』さん。
その手は私の頬に触れる。


「……好き……だ…って………。抱きしめ…たくて……たまらないって………」


気付かないうちに涙がこぼれ落ちる。
一粒なんかじゃない。
何粒も、何粒も。


「……うっ…」

頬に添えられた手の上からあたしの手を重ねる。

「幸村さんっ!!」
「…そんな顔…しないでよ…。笑顔のなまえが…好きな…んだ…」


幸村さん。
幸村さん。
幸村さん。














「精市っ!!」

















ぽっかり開いた心の穴にピースがはまるみたいに。
かかった雲が晴れたみたいに。


一瞬目を見開いたがすぐに戻し、もう一度精市は笑った。
しかし、瞳からどんどん光が消えていく…


「…やだっ……精市?……精市っ!!」
「…―――」

掠れた声で精市は何かを呟いた。

「幸村っ!!!」

それと同時に跡部君が入ってきた。

「…なまえ、こっちだ」
「いやっ、精市が何か言ってるのっ!!」
「なまえっ!!」

精市はタンカに乗せられて運ばれてく。
いろんな器具をつけられて。


救急車が去った後その場に崩れ落ちた。




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