もしも雨が止んだなら… | ナノ
18話

「………よしっ…………。」

ドリンクをタンクに入れるとかなりの重さになる。
それを一人で運ぶのはとても大変だ。
苺加ちゃんは練習中どこにいるのかよくわからない。
そんな苺加ちゃんが今日、私のところに来た。

「…っ!……なまえ先輩っ……」

私を見てとても驚いているようだ。
何をそんなに驚く必要がある?
あぁ、
この両腕の痣かな?
水を入れるときに腕まくりをしたままだった。


「……幸村先輩と別れればすぐに終わりますよ、そんな痛み」
「…私は精市が好き。それは変わらないから」
「どうしてっ?自分より幸村先輩といることを選ぶんですかっ?!先輩はいじめられなくなるんですよっ?!」

黙って苺加ちゃんの顔を見る。
黒い大きな瞳は私をぼやけながらもしっかり写す。

「あんたら、何しとるん」

振り返るとそこにいたのはさっきの四天宝寺の子。

「……っ…」

苺加ちゃんはグランドのほうへ走って行った。

「…やっぱりこうゆう事やったんすか………」
「………………」
「好かないんすわ。あぁゆうタイプの女」
「……なんでこの辺りにいたの?みんなあっちで練習してるよ」


名前も知らないその子は下唇を軽く噛むとその後口を開いた。


「練習になんてならへん。…みんなあの女の事かまって、王者立海も落ちましたね。…でも…うちの学校も……他の学校も………みんな合宿来て……練習しとらへん……」
「………」
「…なんのための合宿なんやろな?あんたをいじめるためにこの合宿は開催されたん?」
「違う、って言いたいけど……そうなってるよね……」
「…何であんた虐められてんスか?」
「…それは………っ…」


「みんなから愛されて…、あの人からも……、」
「幸村先輩が欲しいんです」
「なのにあんたなんかと付き合ってる……、」




「……うっ…………、」


こんな時にっ………、
その場にしゃがみ込む。
呼吸がうまくとれず自分の荒い息遣いが響く。

「ちょっ!……どないしたんスか!!」

話し掛けられるが応答できる余裕はない。
制御できない……

「……ハァ……ハァ……、」
「大丈夫……ですか?」
「…………フフッ……、っ……ああっ…………、ぐっ……、」

私の中で何かがぶつかって離れて、ぶつかって離れて、
それを繰り返して『私』が出来ていく。

「…ハァ…………ハァ………ハァ………ハァ……、」
「…誰か、人っ………、」


呼びにいこうとした男の子の腕を掴み止める。


「…ハァ……んっ……大丈夫……だから……ハァ…、」
「全然大丈夫やないやろっ?」
「大丈夫っ…、…いつものこと…
……誰にも……言わないでくれるよね?……」



男の子は静かに頷いた。
彼の名前は光と言うらしい。



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