もしも雨が止んだなら… | ナノ
13話

「なんか、早く着いちゃったね」
「いいじゃないか。早いに越したことはないよ」
「そうじゃの」

私に話し掛けてくれるのは2人だけのはずだった。


「なまえ先輩っ!」
「……!、」

声の主は赤也君。
「…ちょっと話があります。」


最近、テニス部の誰かが私の名前を呼ぶときは文句を言ったり暴力をふるわれたりするときだった。

「……うん。」
「赤也、何するつもりだい?」


精市の目は本気だ。
あの目で睨まれたら嘘なんてつけない。

「けじめをつけるッス」

それだけ言うと私の手をひいてみんなから大分離れた場所まで連れていかれた。





「切原君……痛いっ……。」

最近赤也君の事の名前を呼ぶ事がなかったから、久しぶりの名前に違和感を感じた。
わざと呼ばないんじゃない。
自然とそういう雰囲気になっている。
今まで名前で呼んでたのに、名字で呼ぶのは多分、私から壁を作ったんだ。


「あ……、すみませんっ……。」


赤也君は急いであたしの腕を離した。
赤也君の力が強かったっていうのもあるけれど、腕の痣に触れ痛いというほうが大きいだろう。

「…どうした、切原君?………殴る?」

沈黙が怖くて、馬鹿な事聞いてしまったと思う。



「すみませんでした」

赤也君は頭を下げた。
急な展開に頭がついていかない。


「え?…ちょっ………頭上げてよ…。ちゃんと説明してくれないかな?」
「今更ってわかってます……。けど……俺、今日の朝の会話聞いちゃったんス」
「あ………、」
「あの会話聞かなきゃ俺はなまえ先輩を信じれなかった……。最低だってわかってます…」
「……切原君……」
「なまえ先輩の事…これから守っていきたい……だから……許してくれませんか?もう一度赤也って……呼んでくれませんか?」


赤也君のこんな目、最後に見たのはいつだろう?
最近の私に向ける目はいつも赤かった気がする。
純粋な黒。
まっすぐに私を捉える。


「ありがとう……赤也君……。信じてくれるだけで嬉しいよ…」
「うっ……先輩っ!」

赤也君は以前のように抱きつく。

「だから、倒れちゃうって」

私も以前のように返す。


いつか、みんなとも以前のように笑いあらい合える日が来るのかな?
けれど……そんなにうまくは進んでくれなかった。

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