Shall we drop in the she? | ナノ

「ううー」
「どうしたの?」
 ずずっと、グラスの底に僅かに残ったジュースをストローで吸い込むギグルスに「行儀が悪いわよ」と笑いかける。
「○○ったら、ひどいの」
 へえと応えながら、○○は誰だったか考える。デートの待ち合わせ時間に遅れる、新しい髪型に気づいてくれないなど、愚痴の内容を聞くに、たぶん彼氏のことだと思うのだが、二週間前に聞いた名前と違うような気がする。気の多い彼女のことだ、この二週間のうちに別れと新しい出会いがあったのだろう。そう結論づけ、空のグラスを持ち上げ、おかわりはいるか尋ねた。
「いる」
 これおいしいと小さく呟かれた言葉に「それはよかった」と返す。美容を気にする彼女のために作ったフルーツミックスジュース。気に入ってくれたのなら、これ以上嬉しいことはなかった。
 ミキサーの中に今朝買ったばかりのフルーツと数個の氷を入れ、スイッチを押す。適度に混ざり合ったところ、スイッチを止め、どろりとした液体を新しいグラスに注いだ。
「はい、どうぞ」
「ありがとう!」
 グラスを洗い終え、ギグルスの座る席に戻る。まだ彼氏の愚痴を言い続けているギグルスに呆れながら、心の中でため息を吐く。氷が溶け薄くなったアイスコーヒーを一口飲むと、いやらしい苦みが広がった。
「あーあ、ペチュニアみたいに優しい人が彼氏だったらよかったのに」
 ぴくりと、ギグルスの言葉に反応する。表情には出さず、すでに半分に減った彼女のグラスを眺めながら、ゆっくり口を開いた。
「ねえ、ギグルス」
「なあに、ペチュニア」
「なら、私と付き合う?」
「……えっ?」
 随分間抜けな顔に思わず笑ってしまう。その後、耳まで赤くなった姿が可愛らしくまた笑ってしまった。
「そ、そんな冗談止めてよ!」
「冗談?」
「そう冗談! 私たちは女同士だし、ペチュニアにはハンディがいるし、私には○○が……」
「冗談じゃないわよ?」
 彼女の細い手をとり、重ね合わせる。
「デートには遅れない。ギグルスの新しい髪型も洋服も気づく。昨日前髪を切ったのね、似合ってるわ。それに、ギグルスの好きなジュースも料理も作ってあげる。ね? 最高の彼氏になると思わない?」
「……思う、わ。でも」
「でも?」
「ペチュニアは私のこと好きじゃないでしょ」
 目が点になる。自分の大きな間違いに、今、気がついた。
「……そうね」
「ほら! だから、そんな冗談は止めて」
「順番を間違ったわ」
 再び間抜け面をさらしているギグルスに微笑みかける。
「好きよ、ギグルス」
2012/07/29
Shall we drop in the she?
title:山海

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