共犯者 | ナノ

「先輩、お疲れ様です」
「うん、気をつけて帰ってね」
 後輩たちを見送り、サッカーボールを一つ手に取る。グラウンドに下りると、先ほどの喧騒が嘘のように静かだった。一応、周りを見渡し、誰もいないことを確認してから、ボールを蹴り始めた。
「――優一君?」
 練習を始めて十数分。ようやく気分が乗ってきたところだったが、聞き覚えのある声に足を止める。
「……先生、勝手にグラウンドを使用し申し訳ありません」
 振り返り、頭を下げると「いいのよ?」と予想外の答えが返ってきた。
「え?」
「必殺技の練習?」
 期待するような笑顔に呆気に取られながらもはいと頷けば、サッカー部の顧問である音無先生はやっぱりと手を叩いた。
「これからのチームのことを考えて、もう一つぐらい新しい技をと思ったんですが……」
「そうね。……でも、あなたは人気者だから」
 ――ああ、分かっていたんだ。今ここで個人練習している理由を理解されていたことに驚く。
 普段の部活は、後輩の練習に付き合って、自分自身の練習の時間を作ることがほとんどできないでいた。後輩に頼られることは喜ばしいことだが、個人的に気になることもやりたいこともある。どうしようか考えて、出した解決策は部活後の個人練習だった。
 このことを好意的に思わない人もいるだろう。また、真似をして部活後の練習を始める後輩も出てくるかもしれない。それでは元も子もない。だから、密かに実行することを決めたのだが、決行一日目で見つかってしまった。自分の計画が短絡的だったのか。せめて校内ではなく土手のグラウンドでしたほうがよかったのかもしれない。
「大丈夫よ? 誰にも言わないから!」
 黙っていたことが疑っていると思われたのか、力強く言われる。その言葉に教師としていかがなものかと首を傾げてしまうが、練習の許可は有り難いものだった。
「ありがとうございます」
「いいえ。……でも懐かしいわ。私も昔は皆の特訓に付き合ったの」
 確か先生は雷門中サッカー部元マネージャーだった。そのときの話を聞きたい気持ちがむくりと生まれるが「練習の邪魔してごめんね」と会話を打ち切ったのは先生だった。
「あ、そうだわ! 優一君、練習をするとき私には教えてくれると嬉しいわ。何かあったときに何も知りませんでしたでは話にならないから」
「……分かりました」
「優一君はすっぱいの平気?」
「え、はい」
「よかったわ!」
 何がよかったのか、尋ねる間もなく「終わったら声をかけてね! 鍵は私が預かってるから」と走り出してしまった先生の背中を見つめる。失礼かもしれないがその姿は、まるで、少女のようだと思った。
2012/07/10
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