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「馬鹿みたいだと、思いませんかあ?」
 重たい頭を上げると、ベータが立っていた。逆光で顔は見えなかったが、語尾をわざとらしく伸ばす喋り方で分かる。それに、ここ、無限牢獄にわざわざ来る人間を一人しか知らなかった。
「こんにちは」
 牢の前に立たれることでようやく、誰か判断が付くほどはっきりと顔が見える。しゃがみこみ微笑みを浮かべる人物は、やはりベータだった。
「相変わらず暇そうですね?」
 時間の感覚はとうの昔に無くなっていた。だから、それが頻繁になのか偶になのかは分からなかったが、ベータは数回ここを訪れていた。
「……」
 今回も普段と同じように一人で満足するまで話して帰って行くのかと思っていたが、ベータは何も言わずただ立っているだけだった。
「なん、だ」
 沈黙を破るために声を出す。血と食事以外を吐き出すのは、久々のことだった。
 無言の状態が嫌だったわけではない。ベータの雰囲気がいつもと違うように感じたことが気になった。
「……え?」
 口の中の傷が痛み、掠れたものになってしまった。きちんと届いているのか、見上げるとベータは驚いた表情をしていた。
 そんなにおかしいかと尋ねたくなるほど、ベータには珍しい間抜け面だった。はっと何かに気づいた後、すぐにいつもの笑顔に戻ってしまったが。
「喋れたんですねー? 何も言わないから声帯壊れちゃったかと思いましたあ」
「なんだ」
「……つまんない人。まあ、いいですけど」
 質問に答える気はないらしい。ベータはどこかを眺めた後、牢の中に手を伸ばした。
 無意識に体が強ばってしまう。傷増えましたねと頬に触れた手が震えているような気がしたが、傷口を押された瞬間、思考が飛んだ。
「っう」
「痛みますか? 痛いですよねえ」
 分かっているなら触れるなと振り払いたかったが、枯れかけた声と繋がれた手では不可能なことだった。力が増し、霞んでいく視界の中、声を絞り出した。
「やめ、ろ」
「はあい」
 嬉々とした声を最後に、意識を失った。
「――ねえ、アルファさん。私貴方には、感謝してるんですよ? 貴方がダメダメだったから私はここから出れましたし、お馬鹿で可愛い人たちをぐちゃぐちゃにすることもできますし……――サッカーが無くなったときには、……なんだか、本当に馬鹿みたいですう! あの人たちのお馬鹿さんが移っちゃいました? アルファさんみたいに? それは嫌です、ね。……――また、会いに来ますから」
2012/06/09
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