まだ始まったばかり | ナノ

 今日は、由紀さんとの初デートだ。なのに、なぜ、後ろが気になって仕方ないのだろう。ちょっと近づきすぎ熱波男なら一気だお前ら静かにしろ。なぜ、お日さま園の連中がくっついてきているのだろう。ダイヤモンドダストだったヤツらだけかと思ったが、俺の元チームメイトも応援というよりはヤジを飛ばしながらついてきている。更に、周りに迷惑をかけないように砂木沼さんが先導していた。
「なっちゃん?」
「はいっ! ゆ、由紀さん、どうしました?」
「後ろに何かあるの?」
「何もないっす! 由紀さんは前を見て!」
 由紀さんが後ろに気付いたら一緒に行こうなんて言い出しかねない。高校生にもなって保護者同伴デートは、イヤだ。
「そう、」
「あ、ここ!」
 杏に紹介してもらった喫茶店の前で立ち止まる。木造の可愛らしい店だった。ここですと笑いかけると由紀さんは暗い顔をして足を止めた。
「どうしたんすか?」
「無理しなくていいよ」
「は?」
「なっちゃん、さっきからちっとも楽しくなさそう」
 頭の中に由紀さんの声が響く。理解が追いつかず、ちがうと、言うことさえできなかった。そんなわけがなかった。二人で約束した日からずっと楽しみで仕方なかった。昨日だって楽しみすぎて消灯時間を過ぎても寝れなかったぐらいだ。
「……いや、だ」
「え?」
「由紀さん!」
「は、い」
「すみませんっ」
「えっ」
 手を取り、走り出す。後ろから、罵倒や応援が聞こえてくる。殺意も感じるが、それらを全て無視し走りつづけた。
 全速力で走り続けていると、いくら毎日部活で走り込んでいるといえど、限界がくる。先にヘルプを求めたのは由紀さんだった。
「な、なっちゃん」
「はいっ?」
「もう、無理」
「……俺もっ」
 ずいぶん遠くまで走ったようで、周りは見たこともない風景だった。河川の芝生へ二人で倒れ込む。もう、後ろには誰もついてきていなかった。
「疲れたー」
「うん……でも、どうして急に走ったの?」
「俺、アホだから……二つのこと気にしたりできねえから」
 まだ納得していない顔の由紀さんに説明したくてもいい言葉が思いつかない。
「だから、由紀さんを選んだだけっす」
 事実だけを言うと、由紀さんは顔を真っ赤にし何も言わなくなってしまった。
2012/04/03
まだ始まったばかり

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