名前と未来 | ナノ

 休憩! と監督の声が響き、木陰に寄る。一息吐き、スポーツドリンクに手を伸ばした。ベンチを見るとマネージャー達が忙しく動き回っていた。
『音楽の担当教官である立花先生がご結婚されました。今日から本野先生なので間違えないように』
 朝、担任が話していたことが急に頭の中に浮かんだ。立花先生のことは顔もぼんやりとしか思い出せない。そんなことより、その後女子たちがはしゃいでいたことが気になった。秋も、結婚に興味はあるのだろうか。今はなかったとしても、いつか結婚する。
 秋がもしも結婚したならば、俺はどうする。どうするって何もする必要はないよなあ……なんて下らない自問自答をしてみる。
「……木野」
 って呼ぶか。ぼそりと呟いたときにちょうど秋が通りかかって、土門君? と首を傾げられた。
「秋」
「うん、どうしたの?」
「秋が結婚したら、木野って呼ぼうか考えてたんだ」
「え、どうして」
 変なのと笑われれば、だよなあと頭の後ろをかく。これは、小さな小さな反抗だった。お前の秋は認めないと、いう。
「私が土門君と結婚したら、飛鳥君って呼ぶと思うよ」
「……へ」
 ずいぶん間抜けな声が出た。秋が俺と結婚したら? そんなこと考えたこともなかった。飛鳥君か。想像もしていなかった出来事は人の思考を停止させるらしい。
「土門君?」
「……あーちゃんがいいな」
「秋のあと、かぶっちゃう」
「ああ、うん、確かに、そうだよな」
 くすくすと楽しげに笑う秋を見て、秋の隣に立つのは俺でもいいのかと尋ねてみたい衝動に駆られる。
「休憩、終わり!」
 監督の声が響く。あ、いけないと秋は夏未ちゃんの元へ走っていってしまった。
「あー……」
 土門どうしたと近付いてきた一之瀬に、秋って呼びたいなと言うと、もう呼んでるじゃないかと返ってきた。そういうことではないと否定するのは億劫だったから、曖昧に頷き、練習へ戻った。
2012/04/02
名前と未来

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