一番の祝福を | ナノ

 白いドレスが光を反射する。強い光と共に、聞こえた音はシャッター音だった。「音無さん?」と尋ねると「先輩、キレイです!」とはしゃぐ声が返ってきた。
「新郎より先に見ちゃいました」
 中学の頃と何一つ変わらないイタズラが成功したときの子供のような笑顔に、「もう」と怒ったような表情を見せる。「怒りました?」と叱られたときの不安げな顔もあの頃と何一つ変わらず、思わず笑ってしまった。
「冗談よ」
「良かったです。……先輩、本当にキレイです。円堂さんにも早く見せたいですね!」
「……円堂君?」
「先輩?」
 胸の中に浮かび上がる違和感に首を傾げると、目の前の扉が開いた。
「新郎の登場ですね!」
 扉の向こう側から現れたのは私と同じようなデザインの服を着た円堂君だった。サッカーのユニフォームを着ていない彼を見るのは久々かもしれない。円堂君は窮屈なのか首もとに触れ、音無さんに気付くと嬉しげに笑った。
「なんだ音無、来てたのか」
「はい! 円堂さんより先に先輩のドレス姿見ちゃいました」
 二人が話している間も違和感は広がっていた。近付く円堂君をぼんやり眺めながら、違和感の正体を考える。
「秋」
『夏未』
「あ……、」
「どうした、ぼんやりして。めずらしいな」
「円堂君」
「ん?」
「違うわ」
 背中に触れ、扉へ押しやる。
 円堂君の笑顔が、呼ぶ声が、雰囲気が……違った。きっとあれは大切な人に見せる顔。それは私ではない。
 扉まで着いたとき、音無さんは消え、風景も服装も、いつの間にか変わっていた。
「円堂君の隣に立つのは、」
 強く扉の向こうへ押し出すと、円堂君の顔が歪んだ。
「円堂君、おめでとう!」
「……ありがとうな、秋!」
 満面の笑みにつられて笑う。私が好きになったのは、この笑顔だった。
 ぴぴぴっぴぴぴっ。目覚まし時計を止め、起き上がる。
「夢、だったのね。……まだ、好きだったんだあ」
 他人事のような自分の台詞に苦笑する。立ち上がりカーテンを開けると、朝日が輝いていた。
「今日は晴れそうね」
 微笑み、準備を急ぐ。今日は、円堂君と夏未さんの結婚式だった。
2012/04/01
一番の祝福を

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