作り笑いは得意だから | ナノ

雨が降った後のグラウンドは最悪だった。水を吸った土はぬかるみ、歩くたび泥を跳ねさせる。洗濯物が大変そうだとグラウンドを駆け回る選手達を眺めた。
「うらやましいな」
空を見つめる。
「いたっ」
前を見ると首から嫌な音がした。肩を回すと更に痛みが増した。溜め息を吐きたい気持ちを堪え、笑わなくちゃと呟いた。
「一つ」
気合いを入れましょう。
「二つ」
口角を上げましょう。
「三つ」
目元を緩めましょう。
まるで料理のように、手際よく笑顔を作っていく。最後に僅かに首を傾げ、笑顔が完成した。水たまりに顔を映し確認する。控えめで私らしい笑顔だった。
「秋!」
「土門君」
「あ…」
「どうしたの」
質問に答えず、動きが止まってしまった土門君に笑いかける。土門君は立ち私は微笑む、不思議な時間が数秒間続いた。どうしたのともう一度尋ねるとようやく土門君はゆっくり口を開いた。
「夏未ちゃんが探してた」
「あ、いけない。もう休憩時間?」
「ああ」
土門君はくしゃりと顔を歪め、すぐに優しい笑みが出来上がった。
「あれ、…おかしい」
思わずこぼれ落ちた言葉に驚き、慌てて口を押さえる。土門君は優しすぎる笑みを浮かべ、私の頭を撫でた。
「秋、一緒に行こう」
うんと頷き、戸惑う。何故こんなに泣きたいのだろう。
「どうして」
大きく息を吸い、思ったままの疑問をそのまま外に吐く。土門君は全て解ったように微笑み、また私の頭を撫でた。
「秋」
「土門君」
「一緒だ」
「うん、」
ああと頭の隅で理解する。きっと、あまりにも土門君の声が体温が笑顔が優しいから、泣きたくなるのだ。
「一緒ね」
二人で一つ、二つ、三つと数え、最後に顔を傾ける。お互いに顔を見合わせ、笑った。
2011/03/28
作り笑いは得意だから
title:10o.
plan:青春レシピ

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