まだ、ほんのりやさしい | ナノ

バス停のベンチにうずくまる彼女を見つけた。声をかけるべきか、周りをぐるぐると歩きながら判断する。前は声をかけずに怒られた。その前は声をかけて怒られた。結局、どちらを選んでも怒られるのだ。大きな嗚咽が聞こえ、そろそろ決断しなければと思う。かけた、かけない、かけた、かけない、順番からいけば、かける。声をかけると決め、大きく息を吸った。
「ギグルス」
「…うるさい」
「泣いてる?」
「うるさい」
「また振られたんだー」
「うるさいっ!」
顔を上げた彼女に胸ぐらを掴まれた。彼女との距離がぐっと縮まり、恥ずかしがるべきなのか頭の隅で考える。胸ぐらを掴んでいる彼女は、そのまま何もせず止まっていた。
「殴らないの?」
「殴るわよ!」
手が震えている。笑いかけると彼女の目が大きく開かれ、耳が一瞬で赤くなった。強い怒りを感じているのだろう。もう一度笑いかけると、ぱちんと軽い音が響いた。頬から痛みが広がる。あ、と彼女の口から声が零れ落ちたが、気付いてないようだった。
「ランピーのそういうとこ嫌い、女の子が泣いてるんだから慰めなさいよ、へらへら笑ってデリカシーなさすぎ、人の神経逆撫でして殴らないのとかバカじゃない」
「ギグルスのそういうとこ好き、幸せになりたいって言いながら不幸街道まっしぐらな所とか、間違ったこと言ってないのに他人気遣って傷付く所とか、殴りたくないのに殴って後悔する所とか」
「嫌な所ばっかり」
「そうだねー」
「ランピーなんか大っ嫌い!」
「そう、大好き」
へらりへらりと笑う。彼女はいつもの調子が戻ってきたのか、呆れたように息を吐き、痛いのか尋ねた。
「痛いよ」
「これ使って」
手に握り締めていたハンカチを押し付けられる。ミネラルウォーターを垂らしたのか、ひんやりと濡れていた。ギグルスの涙と鼻水でびしょびしょだと冗談を言うと、ランピーのバカっと顔を真っ赤にした彼女から怒声が飛んできた。
「ギグルスありがとね」
「…バス、来たから」
「バイバーイ、気を付けてね」
頭を撫でる。子供扱いしないでと怒られると思ったが、彼女は何も言わずただ撫でられ続けた。
「バイバイ」
「うん」
バスに乗る彼女を見送り、ハンカチを頬に当てた。熱い頬に冷たさが広がる。ぼうっと空を見上げ、次のアルバイトは何をしようか考えた。
2011/03/24
まだ、ほんのりやさしい
title:ひよこ屋
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