檸檬 | ナノ

「お、あった」
机の上に置いてある少年漫画を手に取り、小さく口笛を吹いた。随分、簡単に手に入れられ物足りない気もしたが、スプレンディドのように金庫に入れられても困る。兄弟揃って必死になりながら取り戻したことを思い出し、舌打ちした。
「うわ、ばっ」
「ん?」
大きな声が下から聞こえる。美術室音楽室書道室を併設する美術棟の裏は、人通りが少なくサボるにはうってつけの場所だ。もし他の人間に見つかったなら後々面倒になると、誰が居るのか確認するため下を覗いた。
「あーん」
「ペチュニア、見られたらどうするんだよ」
「大丈夫ですよ」
思わず口元を押さえる。下に居るのは、ペチュニアとハンディだ。
「ほらハンディ先生、あーん」
「あ、あーん」
「どうですか?」
「美味い」
「良かった」
真っ赤な顔でお弁当を食べるハンディとそれを嬉しそうに見つめるペチュニア。教師と生徒が恋人、ドラマや漫画の中だけだと思っていた関係が目の前にある。
「悪いな」
「え?」
「こんなジメジメした所、嫌だろ」
「平気です」
嘘つき、声に出さず呟く。本来なら潔癖症の彼女があんなジメジメした薄暗い汚れた場所耐えられるはずない。愛の力は偉大よ、どんなことでも乗り越えられるの、と休みに見たB級映画の台詞を思い出し、嘲るように笑った。
「下らね」
近くにあった檸檬の模型を一つ手に取る。もし校長にハンディ先生とペチュニアが付き合ってると告げ口したらどうなるだろうか。優等生と劣等生、教師がどちらの言葉を信じるかは明白だ。彼女が否定さえすれば、俺の告げ口は無効になる。
「…下らねえ」
檸檬を机の上に置き、声を出さずに笑う。今なら男の気持ちを理解できるかもしれない。
「ばーん…って、やっぱり理解できねえわ」
鬱々溜め込み妄想で発散させるなんてらしくない。再び檸檬を手に取り、窓からそっと落とす。驚いた声を背に、悪戯成功の喜びを胸に秘め、漫画を取り返してこいと偉そうに命令した弟の所へ急いだ。
2011/01/01
檸檬
plan:1000hit感謝企画

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