赤いヒールは、まだ早い。 | ナノ

危ないなと見た瞬間思った。案の定砂に足を取られ、ふらついている。
「きゃ」
「大丈夫か」
慌てて駆け寄り、倒れそうになった体を支える。倒れるという恐怖は強いのか、ギグルスは服にしがみついていた。
「ラッセル、」
「海にそんな格好で来るからだぜ、お嬢ちゃん」
「別に、いい、じゃない」
「お洒落するのは構わない、オジサンも可愛く着飾った女の子は大好きだ。けどな、海に来るならもう少し低い靴を履いてきたほうがいい」
少し表情が固い。馬鹿な子ではないから伝わったのだろう。抱きかかえコンクリートの所まで連れて行ってあげると、もう大丈夫と自分から降りた。
「そうか」
「ねえラッセル」
「何だ」
「ラッセルが好きなのは可愛く着飾らない女の子も、でしょ」
「だな」
頭を二、三度撫で笑う。今度来るときは低い靴なと付け加えるとギグルスは小さく頷いた。
「よし」
「…ラッセルのバカ!オジサン!キライ!」
沈黙の後、急に真っ赤な顔で罵倒され戸惑う。いや、むしろ可笑しくなってきた。
「何笑ってるの!」
「いや、」
「…子供扱いはイヤなのに。本当はこの靴だって」
今にも泣き出しそうな顔を見て、やっちまったなと頭を押さえる。ギグルスが海にわざわざ買ったばかりの高いヒールを履いてきた理由も罵倒した理由も分かっていたが、曖昧に避けることしか出来なかった。大人の男性、例えばこの街一番の紳士モールさんならば、もっと上手く流すのだろう。
「ギグルス、その靴似合ってるな。でもオジサン、…俺は、砂浜を一緒に駆けれるような靴のほうが好きだ」
「…履いてきたって、一緒に走ってくれないくせに」
鋭い言葉に苦笑する。ごめんなと呟くと睨まれた。
「…後な、俺はギグルスのことスキだぜ」
「ラッセルのバカっ!」
今日一番大きな声。真っ赤な顔で痛くないパンチを撃ってくるギグルスを軽く、抱きしめた。
2010/11/30
赤いヒールは、まだ早い。

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