今日の終わり | ナノ

ぱあん!風船が破裂した。(逃げなきゃ)本能が逃げろと告げる。後ろへ二、三歩下がった。
「どうした?」
カレは二、三歩前に進んだ。かれと彼とカレは違う。笑顔が違う。かれの笑顔はあたたかい、彼の笑顔はよく解らない、カレの笑顔は怖い。
「どうして逃げるんだ?」
「こわいから」
「誰が」
「アナタが」
あなたでも貴方でもなくて、アナタが。
「そうか」
楽しげにカレは、笑った。壁に背がぶつかる。(嗚呼、)絶体絶命とはこのことか。カレの指が首に絡まる。生暖かい感触が、気持ち悪い。
「あ、あ」
ゆっくり力が加えられた。言葉か単語か、あ、あ、と声が零れる。叫ぶことも、なくことも出来なかった。空気がなくなると意識が朧気になり、かれの名前がうまく思い出せない。
「ふ、ふ」
「笑ってるのか?」
カレは少し驚いて、笑った。
「死ぬのが楽しいか」
更に力が加えられる。
「楽しいか」
カレが何を言っているか分からない。
「楽しいな」
朦朧とする意識の中、もしここにナイフか包丁かフォークか鈍器か何かあったらと考えた。
「あははははは」
もっと楽に死ねたのに。
2010/09/10
今日の終わり

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