めでたしめでたし…じゃないからッ!! | ナノ

▼めでたしめでたし…じゃないからッ!!
 


 これは例によって例の如く、巷でありふれた王道のお話…のせいで被害に遭った憐れな人物のお話。





 物語の舞台は昼食をとる生徒達で溢れる食堂から始まる、ごくありふれた出だしから。
平和な空気とは程遠いどこか険呑な空気が6割、巻き込まれないように息を潜める3割、後1割は我関せずなつわもの達と、それから周りの空気に気づかずに和気あいあいと特別スペースで食事をする一部の生徒達で占められていた。
この物語を読まれる方にはお分かりだろうが、例によって例の如くこの学園には生徒会や風紀等、生徒達によって選ばれた顔よし家柄よし成績よしなエリート達を崇めるような風潮があり彼らを敬愛する者達で構成された親衛隊がある。
そして季節はずれの転入生に魅了されたエリート達と、それに嫉妬する生徒達でこの学園は少々空気がぎすぎすしていた。

「ルカは俺様の選んだシェフの気紛れAランチの方がいいよな」
「ルカ、俺の親分のオススメ丼が、気にいる」
「おいおいルカがテメーらのような料理人に任せたようなチョイス選ぶかよ。この俺の昔懐かしビーフシチューの方が今日のルカの気分にぴったりだよな」
「俺はどれも食べたいぞ!!」

いわゆる王道展開が繰り広げられていたのである。

この風景はかれこれ1週間程続いており、まともな生徒達はそろそろ毎日同じやりとりを続けるこの光景に飽きてきていたし、親衛隊達は歯ぎしりのしすぎでそろそろ歯が欠けそうでもあった。
学園内のこの不穏な雰囲気と仕事を放棄した役員&自分の上司でもある風紀委員長をどうにかしようと、風紀で副委員長を務める西崎は彼らの可哀相な頭をリセットせんがために大きなハリセンを用意してターゲットに近づこうとしていた、そんな時であった。

バーン!!

騒がしい食堂に響く程乱暴に開けられた扉に、ほぼ全員の視線が集まった。
そこに居たのは、顔を伏せた生徒会会計の姿。
いつもはユルユルとした表情とユルユルとした服装でユルユルとした雰囲気を纏って周囲の人間にユルユルと笑いかけていた、王道ではいわゆるチャラ男会計のポジションにあった彼は、今まで見せた事のない乱暴な足取りで、専用スペースまで歩く。
すわ何事か、と多くの生徒達が見守る中、彼はこの状況でも転入生をとりあうトップ達の元まで迷うことなく足を進め、ようやく会計の存在に気づいた彼らが声をかける間もなく…

ガッシャーン

椅子を蹴り飛ばした。

(((か、会計様―?!!)))

もう一度言おう、椅子をそれはもう見事に、蹴り飛ばした。

「「「……」」」

「て、てめっ、おい会計なにす……」

普段の会計からは到底考えられない行動にここにいる皆が唖然とする中、逸早く正気を取り戻した生徒会長が反論しようと口を開いたのだが、これまた普段の会計からは想像もできない程の睨みについ押し黙った。

「お前らマジいい加減生徒会室来いや」
「会計、…野蛮」
「あぁん?!たかが初恋如きで仕事サボるような能なしに蛮族呼ばわりされる筋合いねーよ」

この駄犬が、と常にはない吐き捨てるような言い方に書記がたじろぐ。

「俺様に偉そうに指図するなよ会計風情の分際で」
「その会計風情に仕事押し付けてらっしゃるのはどこのおぼっちゃまでしょうかねー」

いつもユルーく「かいちょ」としか呼ばれてなかったのに皮肉交じりに「おぼっちゃま」と言われて、会長はやっと開けた口を再び閉じてしまった。

「おいおいおい、御乱心かよ会計」
「黙れどっかのバカ委員長」

これまたいつもならふんわりユルくしか話しかけられなかった委員長は、ちょっとばかし内心傷ついた。
言動がまるで別人のように変わってしまった会計に、役員達だけでなくそこに居た生徒達まで狼狽していた。
しかし、周囲のそんな驚きなんて我関せずの会計は、会長と書記にひたと視線を据えて険呑な雰囲気のまま続ける。

「いいか、別に仕事しろなんて諭しに来てるんじゃねーよ。や、サボられるのは迷惑だけどこっちに皺寄せこない程度なら別に文句言わないから、とりあえず、何が何でも!生徒会室に来い。常駐しろ、仕事しなくてもいーからそこに居ろ、この際そこの偽もじゃも一緒じゃなきゃ来ないとかカワイソーな思考ならそれでもいいから、来い」
「は?」

どこか鬼気迫る会計の様子に、会長が珍しく間の抜けた表情になったが、だいたいの生徒は会長と同じような反応しかできなかったので、この貴重な表情は残念ながら見逃された。
そこへ、鳩が豆鉄砲をくらったような表情をした生徒で溢れ返る中、今度はとたとたと可愛らしい足音が複数聞こえた。

「うわーん会計さまーそんな野蛮なお言葉お使いにならないでくださーい」
「いつものゆるゆるな会計さまに戻ってくださいー」
「「「会計さま、落ち着いてー」」」

涙を流しながら、会計に抱きついたり会長の胸倉を掴んでいた手を引き戻したりしたのは、会計の親衛隊だった。

「これが落ち着いていられるか」
「お気持ちはわかりますけど、少し深呼吸しましょ、ね?」
「大丈夫です、ここでは流石にあいつも狙ってきませんから、ね?」
「ちゃんと落ち着いて話せば、会長さま達だってわかってくれますよ、ね?」
「つんつんな会計さまもかわいーけど、いつものゆるっと会計さまの方がかわいーです」

取りなすように言葉をかけ、会計の背中をさする親衛隊達。
ふーっふーっ、と野生の猫のように威嚇している会計。
そして親衛隊の言葉にあった不穏な響きに気づいた会長は眉をよせた。

「狙う?どういうことだ会計」
「ほら、ね?色ボケてても流石は会長さまですよ、ちゃーんと会計さまのこと心配してくれたじゃないですか」
「……おい」
「会計さまかわいーですもん、大丈夫ですよ」
「よかったですね会計さま、きっと会長さまお願い聞いてくれますから。ね?」

自分のではないとはいえ、親衛隊に「色ボケ」認定された会長は口元を引き攣らせた。

「ほら、いつもの会計さまに戻ってお願いしてみましょ、会長さまも聞いてくれますって」
「おい」
「ね!!会長さま、…ね、そ う で す よ ね ?」
「…お、おう」
「ちなみに小首を傾げるのが一般的ですけど、会計さまなら潤んだ目もとでのお願いがギャップでかわいーです」

ここまで強制的な聞き方を親衛隊にされたことのない会長は、つい勢いにのまれて頷く。
隣では書記がこくこくと壊れた人形のように首を縦に振っていた。
そんな様子のかつての仲間に、やっとどこかで安心したのか、会計の固い表情はふわりと解け、ふにゃりとユルユルの空気が戻ってきた。

「…、色ボケかいちょー、書記」
「色ボケはとれ」
「駄犬、の方が、いい」
「会計さま、頑張って」
「会計さまかわいー」
「ちゃんと話せばわかってくれますから」
「俺蚊帳の外かよ」
「大丈夫だぞ俺なんか冒頭からほとんど無視されてるぞ!」

幾分いつものゆるっとした会計に戻っているが、いつもなら書記の唐突にされたM発言やさっきから方向性の違う隊員にツッコミをいれるところだが、今はそんな余裕はないようだ。
一人途中から眼中に入れてもらえないで不服そうな風紀委員長を慰めるようにポテトを差し出す転入生の姿すら、スル―している。

「……オレの親衛隊の皆、ちっちゃくてかわいーんだよ」
「は?」
「ほら、隊長なんてふわふわでかわいーでしょ。弟に似ててついかまいたくなっちゃうんだ」
「いや…お前の弟5歳だろ」
「下半身ユルいとか噂されてるけど、別に誰でもいいわけじゃないし」
「……」
「皆のこと性処理の相手と考えてるわけじゃないし、同時期に何人とも関係もってるわけじゃないし」
「あー、…だな。お前はただサイクルが早いだけな。惚れっぽいだけだもんな。…で?」
「好きになったら体のかんけーまでいくのは、人より早いかもだけど、でもオレにも好みあるんだよ?ふわふわの髪の方が好きとか、」
「お前の趣味嗜好聞いてないから。つまり何が言いたいんだ」

いきなり話のそれた会計にもどかしそうに会長が本題を求める。

「だから、オレ好みの範囲広いし他の人より貞操観念?少しアレだけど、でも、入れる方なんだよ」
「「………」」

しかし、到底お昼の食堂でされるべきではない下品な方向についつい押し黙る一行。
そしてパーマあてようかと悩む一部の一般生徒たち。

「180p越えの男押し倒したくなるゲテモノ好きも偶に居るけど、オレはそんなの興味ないし」
(「ゲテモノじゃありませんよ、会計さま腰細いし顔綺麗だから下でも十分いけますよ。なんなら僕一度押し倒したいですもん」)
(「隊長それ思ってても言わないであげて、会計さま今その手の話繊細だから」)
(「隊長に怯える会計さまかわいー」)

心なし隊長から距離を置いた会計は青ざめた表情で、ついに決心したように「お願い」を口にした。

「だから、オレお尻狙われても困るんだよ。想定の範囲外だよ、そこは出すところであって入れるとこじゃありませんー」
「……はぁ?!!お前が?誰に?」
「誰にって副会長にだよ、助けてかいちょー!!」
「副会長がか?」

いきなりもう一人の生徒会仲間の存在が思わぬところで出てきて半信半疑なその場の雰囲気。
それもそのはず、副会長は王子様のような容姿と王子様のように温厚な性格と少しだけ細かいところがありながらも仕事に真面目な態度だからだ。
性関係も会計とは正反対のクリーンさで、むしろいつも目まぐるしく変わる会計の恋人に関して注意してるほどでもあったのだ。
ありえない、というか考えられないことに会長だけでなく他の生徒達も首を傾げる。
感極まって涙ぐむ会計にハンカチを渡しながら、援護するように親衛隊が説明をした。

「あのですね、お2人が生徒会室に来なくなってから、会計さまは副会長とお仕事されてたんですよ」
「そしたら今まで温厚な王子さまだったはずの変態腹黒王…失礼、副会長さまが襲ってきて」
「あわやというところで僕たちがお助けできたんですけど、それ以来2人きりになると度々会計さま狙われちゃってー性的な意味で」
「僕たちも会計さまのかわいーお尻をお守りすべく色々してるんですけど、生徒会室って中々立ち入れないのですよねー」
「だからお2人が戻って来て下されば、あの変態腹黒王子も流石にあからさまに会計さま狙えなくなると思いまして」
「…本当にあいつが?嘘だろ…」

今まで自分達が一緒に居た人物とは思えない話に、茫然とする会長がぽつりと零した。

「まったくです」

その場の空気に清廉な声が落とされる。
一滴のような何気ない言葉なのに、周りに波紋をもたらす水滴のように周囲に動揺を招いたその言葉の出所は話の渦中である副会長だった。
呆れた表情を見せながら、つまらなさそうにハリセンを抱えた副委員長を従えてゆっくりと近づいてくる。
一番早く行動したのは会計で、素早く会長と書記の後ろにまわりこんだ。
親衛隊はその後ろで会計のバックを守るように張り付く。

「まったく、昼食を摂るにしては遅いと思えば。会長、書記もいい加減戻ってきてください、これ以上は自己責任で処理させますからね。今の一人部屋が寂しいのであれば即刻相部屋に戻すのに協力致しますよ」
「…わ、悪かった」
「……ごめん、なさい」
「風紀もトップがおバカだと苦労しますね」
「なんだ、と…?」
「はいはいアンタは潔く一度俺のハリセンの餌食になってちゃっちゃと戻るよ。迷惑かけたな」
「それはお互い様ですから。さぁ2人とも色恋は仕事を終わらせてからですよ。やることやりさえすれば、あとはアホのケツ追いかけてもなにも言いませんから。趣味悪いなと思うだけで」
「そう言いながら、さりげなくオレの尻触んないで。それと隊長投げないでくんない?!」

一見、仕事をサボってきた学園のトップ達をようやく諌めて、ここしばらくの嵐も収束するかのような、そんなホッとする会話にも思えるが。
しかし、この状況を見ている者達は、新たな嵐がやってくることをひしひしと感じていた。
今まで温厚穏やかな表情と物腰柔らかな態度しか見た事無かった副会長が、笑顔で毒を吐く様子に。
今まで何様俺様生徒会長様だったはずの彼とマイペースだった彼が、仲間の毒に素直に頭を下げる様子に。
会長と張り合うほどの我が道しか存在しないだろうな風紀委員長が、ハリセンでどつかれた後首ねっこを掴まれて大人しくなる様子に。
そして、
会計を守っていた隊長をぺいっと投げ捨て、自然に肩を抱き尻にまで手が伸びている副会長の様子に…

「私は今日の生徒会の仕事も終わりましたし、本業の勉学にも抜かりはありません。先生が用意した小テストも満点でしたので、午後の授業はここしばらくの過密スケジュールを考慮してくださった先生方から休むように言われています。あ、もちろん会計、貴方もですよ。2人でゆ っ く りと休みましょう?2人っきりで、ね?」

「やー!!!!隊長かいちょ書記委員長、誰でもいいから助けてぇぇえー」

大丈夫です初めては痛いと聞くけれども幸い明日は休日ですから多少動けなくても支障はありませんし、と会計の腰をいやらしく撫でる副会長と、必死に会長と書記の袖を握って抵抗する会計。
そしてそれを阻止しようとする親衛隊と、カーディガンが引っ張られてびろびろに伸びても文句も言わなず開いた口が塞がらない会長と書記。

まさしくカオス。

そんな光景のまま、とりあえず幕がおりようとしていた。

「なにも解決してなーい!!」
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