猫かぶりのキミへ | ナノ

 (後編)

「・・・新たな時代、じゃないんだな!!」
「え?そこにツッコむんだ?このポーズとかじゃなくて?」
「あえて言うなら、そのポーズは別のキャラのだぞ!!ついでに薔薇の花弁だって用意しなきゃいけないとかあるけど、可愛いからいいと俺は思う!」

ツッコミ、とはまた違うけど瀬尾くんがキラキラした目で(や、目は見えないけど雰囲気がね)賛成してくれるので、照れるぜ。
さっきまでの険悪な空気はどうやら霧散したようなので、このオレの捨て身な感じの登場も無駄じゃなかったみたいだね。そう全ては計算の内だったのだよ、お嬢さん。

「えー…と、あ、あゆむ様?なんでそんな奴と意気投合しちゃってるんですか?!」
「そんなことより、君たち。これは会計親衛隊隊長も容認されての警告なの?」
「そ、それは・・・」

さっきまでの勢いが嘘のようにたじろぐ親衛隊の子達に、オレの確信が強くなる。
会計の親衛隊隊長って言ったら、おしゃれ大好き楽しいこと大好きな天然ポメラニアンだ。
制裁とかよりも会計と楽しく遊んでいる方が好き、って感じのワンコタイプ。(好みの対象ではないが一度懐かせて愛でたいと思って見ていたのだから間違いない)
こんなやり方はしないだろう、という読みは当たっていたみたいだ。
戦意喪失した子達を見て、あとは瀬尾くんに常識とはまた違ったこの学園で住みやすいルールを教えてあげれば、オレは晴れてタルトタタンという恋人と至福の時を過ごせるっていう寸法だ。
なんて素敵オレ、グッジョブ米田くん。君の作るお菓子には毎回蕩けさせられるゼ。
ついでに会計じゃなくて会長を推しておこう。そしたらオレのお尻も安泰だ。
ワンダフル、オレ。

「えーと瀬尾くん?会計様と仲良くするのがダメってわけじゃないけど、」
「別に一緒に居るのなんて普通だろ?俺達従兄弟同士なんだからな!!」
「「「・・・・・え、」」」

人の言葉を遮って告げられた内容にオレも含め面喰った。
そしてオレは、さっさとそれを言ってたらもっと早く収束したのにと思うのは内心だけにとどめた。

「へー、それ初耳だよ。って事は会計様とは昔からの?」
「あぁ!!よくあいつの家で仲良く遊んでたぞ!!」

更に青くなっていく子達を見て、これ以上瀬尾くんに危害はくわえないだろうなと予測。
わかったならさっさと戻りな、と促すと慌てて瀬尾くんに謝りながら去って行った。
うん、根っからの根性悪い子達では無さそうだ。あーいう子に教育していくのも楽しそうだよなー、なんて考えてたら隣から不思議そうな声。

「?結局あいつら何を怒ってたんだ?」
「女の子の日なんだよ」
「オンナノコ?」

あぁ冗談だよ、そんな真に受けなくてもいいからとりあえず、モジャッティの頭のまま首傾げるとか止めようか。
なんだかマックロクロスケを手懐けてる気分になるから。

「いい?瀬尾くん、彼らはね思春期特有の病に罹っちゃって、盲目なんだよ。ここで平穏無事に過ごす為にはあまり見た目のいい人達に近づかないようにした方がいいよ。あ、でも会長は別だからね。もし瀬尾くんが会長にホの字になっちゃったりしたらボク全力で加勢するから!!なんなら今からでもなってみる?」
「え、えーと、あゆむ?お前早口上手いんだな!!」
「呼び捨て!!!そして、内容スルー」
「いや、ちゃんと聞いてたぞ、“人の話はちゃんと聞きなさい”がお約束第5条だからな!!」
「そんな胸張って言われても・・・まあいいや。じゃあ今は意味が分からなくても、とりあえずさっき言ったこと守ってみて。瀬尾くんだって学園生活楽しく過ごしたいでしょ?」
「よくわかんねーけどわかった!!」

瀬尾くんって声でかいし、語尾に必ずと言っていいほど!マークつけるし、ちょっと思いこみ激しいところもあるみたいだけど、素直なところもあるんだなー、なんて。
ちょっとだけ身長の低い彼を見下ろしていたら。

「あ・・・でも・・・」
「なに?」
「そしたらあゆむともこうやって話せないってことか?それはすごく嫌だ!!」
「ボク?えー・・・」

そんな可愛いこと副隊長とかに言われたら胸キュンなんだけどねー。
瀬尾くん顔の半分隠れてるから、どうにも萌えないんだよね。

「俺には友達と仲良くする権利なんてねーのかよ!!」

いや、いつの間にオレら友達になったのさ

どう宥めてタルトタタンの元へ向かうか考えていた時に、聞き慣れた曲が耳に入ってきた。
思わず自分のポケットに手をやるが、マナーモードにしているそれはもちろん振動してなくて。
まさかと思って視線を戻せば画面を見て焦っている瀬尾くんがいた。

「げっ城之内・・・あゆむ、ちょっとゴメンな。電話でてもいいか?」
「いい、け ど」

2,3歩離れて電話口の向こうに話しかけるけどね、瀬尾くん、もう少し声落とさないと離れた意味ないよ丸聞こえだからね。
というツッコミを内心でしつつ、この隙に愛しいタルトタタンへとフライアウェイしないのは、気になる事ができちゃったからだ。
早く聞きたいとウズウズしながら瀬尾くんが電話を切るのを待つ。
そんな思いが通じたのか割と早くに電話を切った瀬尾くんに、オレは我慢できず自分から近づいて行った。

「ねぇ瀬尾くん、君の着メロって・・・」
「ん?知らないのか?これは俺が尊敬する師匠のテーマ曲なんだぞ!!!」

内心では嵐のように乱れる心を抑え、震えそうになる声を唾を飲んで誤魔化しながら、言葉を紡ぐ。

「ブルース・リーの、『燃えよドラゴン』・・・が?」
「リー師匠は俺の心の師匠なんだ!!」

―・・・あぁ、

がしっ

叫びたい程の興奮を抑えるのは無理で、その全ての力を肩を掴む手に注ぐ。
オレの勢いに驚く瀬尾くん、いや知るか、オレは今猛烈に高揚しているんだ。

「瀬尾くん、君話せばわかるんだね。もっと日本語の通じないお子ちゃまなんだと思ってたけど、オレの心のマスターをリスペクトしてるなんて」
「え?ますたーって、あゆむも師匠の事好きなのか?俺師匠の出ている映画全部DVDに焼いて持ってるぞ!!・・・ん?今なんか俺の認識ひどくなかったか?」
「まぁまぁいいじゃない過去の事なんて。それより、すごいね、DVD。全巻?全巻なの?ねぇそれ今度オレにも見せてくれる?」
「もちろんいいぞ!!あゆむお前良い趣味してるよな!!」
「それを言うなら瀬尾くんこそ。オレさ、夏にマスターを見習ってジークンドー習おうかなって思ってて・・・」
「おぉー!!それなら俺も思ってた!!この前そのつもりで申し込んだのが間違っちゃって、ムエタイでさー・・・」

この後オレ達の間で、【マスター(師匠)を熱く語り合う同盟】が発足したのは言うまでもない。

to be continued...?


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