猫かぶりのキミへ | ナノ

 大切なものは手におさまりきらない(前編)

 五月の風が爽やかに吹き渡る、とある午後。
うららかな陽気と内容の濃い授業を終えて解放感溢れる放課後のはずが、ここ裏庭では重苦しい雰囲気に包まれていた。
そしてオレこと桐谷あゆむは、只今重要任務に就いている真っ最中である。
体をなるべく地面に伏せて青々とした茂みに身を隠し、標的である人物達の動向を探っている。
・・・嘘です、ただおサボリついでに昼寝をかましちゃったらいつの間にか放課後だっただけです。
そして起きてみたらあらビックリ、近くの茂みでどこかのチワワ達がきゃんきゃんと吠えてたので出るに出られなくなったのです。
校舎に戻る道の途中でたむろっている為にコッソリ帰ることはできません、そしてあそこに居る数人のチワワは好みではないので非常に残念であります。


大切なものは手におさまりきらない


「僕達だって君が外部からの人間だから、最初は遠慮してたんだよ」
「そうそう。だけどさ、そろそろ2週間経つんだよ、いい加減ここのルール分かってきたでしょ?」
「ああ、もちろんだ!城之内にも教えてもらったぞ、“廊下は走らない”、“授業中はしごをつつしむ”、あと・・・あ!そうだ、“食事中口の中に物が入っている時はしゃべらない”、だ!」

それ、全部ここだけじゃなくて一般常識だと思うよ

「そこなの?!まずはそこからなの?!遠いんだけど、限りなくここのルールまでの道のり遠いんだけど!!!」

同感だよ、チワワA・・・
そして城之内クンとやらは、せめてもう一つ、“近くに居る人に話す時はもう少し声量を落とす”という事をあそこに居るモジャッティこと瀬尾陸に教えておいてほしいところだよね。
おちおち昼寝もできやしないよ。

「な、なんだよ・・・あ!あれか、“年上には敬語で話す”だろ!でもお前たち、俺と同じ学年だよな?」
「そこでもないし!僕達に敬語は必要ないけど、君が付き纏っている朝倉様は年上なんだから敬語が必要だからね!」
「っていうよりも、そもそも朝倉様に近づかないで、って僕達は警告しに来たんだから」

朝倉・・・、誰だっけ?

記憶に無い名前だから、どうせ最近できた俄か親衛隊のところだろうと当たりをつけて、これだから新しく発足したばかりのとこは教育がなってないんだ、と口を尖らせていたら、聞こえてきた次の言葉でビックリ。

「生徒会の会計をされてる朝倉様はご多忙なんだから、邪魔をするなら僕達生徒会会計親衛隊が黙っておかないんだから!」

・・・あれ?せ、い とかい・・・
会計、ってことは、あのやたらとふわふわニコニコしたチャラい感じの人かー
別にあれだからね、親衛隊のしかも隊長だからって生徒会の名前覚えてないといけない、とかいうルールは無いからね。
こんなのテストに出ないから覚える必要無いしね。
あの人って会う度に飴とかクッキーくれるけど、長身で見下ろしてくるのがイヤだからって妬んで覚えてないわけでは・・・決してないから、うん。

誰に聞かれるでも無いのに言い訳していたオレのちょっとした後ろめたさを刺激するように、ポケットに入れていた携帯が振動して驚かされた。
何回か震えた後に止まったそれを、ドキドキしながら見ると副隊長からのメールで。
隊内はともかく生徒会への対応がおざなりなオレによく叱っていた副隊長だから、もしかして今のをどこかで察知してのお怒りメール?なにそれ副隊長、もしかしてエスパー?なんてドキドキしながら操作すると、

《親衛隊会議すっぽかすなんていい度胸してますね。隊長の分のアールグレイはすっかり冷めました》

別の意味でのお怒りメールだった。
いやん、アールグレイはオレあったかいうちに飲みたかった。

《違うんだよ副隊長、行きたいのはヤマヤマなんだけど、途中の道にアレが出現して行けないの》
《“アレ”?・・・貴方、この前「ヤダーきもーい」とか言いながら華麗な手さばきで退治してたじゃないですか》

え?見てたの?確かにオレGを仕留めるのちょっと得意だけど・・・じゃなくて、

《そっちじゃなくて、いや黒いのは似てるけど、アレはGじゃなくて瀬尾くんのことだよ》
《害虫という意味でもニアミスです》

副隊長、辛辣!!

《絡まれてるんですか?駆除しに行きましょうか》

せめてそこは“お迎え”にしてほしいところだったよね、瀬尾くんの為にも。

《どうでもいいですが、米田くんが作って来てくれたタルトタタンすごく美味しいです》
《すぐ行く、10分で行くからボクの分とっておいて!!絶対だからね》

惜しみなくキャラメル色に輝く様を見せつけるかのような写メが添付してあったら、それはもう急行するしかないよね。

「タルトタタンに誘われて、桐谷あゆむ華麗に参上☆」

ってことで、さっきまでは嵐が通り過ぎるのを待ってたけど、ここは強引に通してもらおうと勢いよく立ちあがって進み出た。(ついでにポーズもしておいた)
おまけでウィンクもしてみたので、片目の視界に映ったのは青ざめる子とぽかんと口を開けたままアホ面しているモジャッティこと瀬尾くん。

「あ、あゆむ、様」
「なんでこんな所に・・・っ?!」

いきなりのオレの登場に驚く親衛隊の子達の反応は、・・・まぁ、妥当だとは思うんだけども。
誰かこのポーズにツッコミいれてくれない?恥ずかしいじゃん


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