猫かぶりのキミへ | ナノ

 全ては少し硬い膝の上で

「最初はさー、ころころとじゃれてくるかわいいワンコちゃんだったのにさー」

別に男がしても微塵もきゅんとしないあひる口で、目の前の会計はお菓子を指につまんではいじっている。
ヘーソウデスカ、なんて適当な返事をしつつもオレが大人しくこの場に居るのは決して目の前の有名店御自慢のスイーツに釣られたわけじゃないから。
隊の活動報告書なんてシチメンドクサイものを提出にきた生徒会室で、偶々休憩しようとしていた会計に誘われただけだから。
断じてオレは食べ物に釣られる程食い意地はってるわけじゃ、あ、このさくら餅めちゃうま。

「でねー俺実家に犬飼ってるわけ。ほらなんて言ったかな、ふわふわの、ポメラニアン?母さんの趣味でさー」
「ナルホド」

ずずずーなんて行儀悪く音なんかたてながら抹茶をすする。
んーさくら餅の甘さとこの抹茶の苦さがなんとも言えない絶妙さだよね、和の真髄を見た気がするよ。

「この前帰省したら短くカットされててねー、流行りの柴犬?カットとかサマーカットとかいうやつ」
「タシカニ」

え?返答?そんなのテキトーに決まってるじゃん。
会計の話って、いつもあっち行ったりこっち行ったり寄り道ばっかでとりとめもなく長いから、大抵最初と最後のところだけ聞いておけばなんとかなるし。

「まぁあれはあれでかわいいんだよねーあ、写メ見る?」
「またの機会に、」
「これなんだけど、ホラかわいくね?性格も人懐っこくて、俺が帰ったら走って出迎えてくれるんだけど」
「ナルホド」

だいたい、こっちがテキトーに返事しようが真剣に聞こうが、会計は関係なく話を進めるしスマホにある写真フォルダをつきつけてくる。
これ絶対オレじゃなくて人形相手でも1時間は平気で喋ってそうじゃね?って思うけど、流石に役員様にそんな対応したら副隊長に怒られちゃうから我慢してるオレってば偉い。

「そんなウチの桃ノ助に似てて、ついつい可愛がっちゃうんだけどね…」
「はあ(美味しそうな名前)」

桃食べたくなってきた
帰ったらネットで注文してみようかな、桃って今の季節だっけ?

「でもねーうちの隊長ってばさ、俺の写真とか売りさばいて一儲けしてるんだよー」
「へー」
「ひどくない?」
「そうですね」

延々と何やら聞かされていたが、えっと何の話だっけ?
確か桃が…じゃなくて、会計の隊長さんの話か。
しかし、おしゃれ大好き楽しい事大好きな天然ポメラニアンだとばっかり思ってたけど、案外がめつい性格してたんだ。
会計の写真ね、確かに需要はそれこそ生徒会役員だけあってあり過ぎる程だし、隊長という立場だから親衛隊公認というか公式扱いでお咎めも無さそう…?
ん?

「……なるほど、その手があったか」

忘れてたけど、オレ生徒会長親衛隊の隊長じゃん!!
学園でも親衛隊数bPである会長の、(不本意ながら) “隊長”してんじゃん!!
これ上手くいけば、会計のとこよりがっぽり稼げるんじゃないの?!

今更のように思いついた素晴らしい発案に、オレの頭の中は一気に金の音一色になった。
これでまた心のマスターであるブルー●・リーグッズが増えるんじゃないかという、素敵な未来に想いを馳せていたオレだったが。
しかし、突如ぐっと後ろに引き寄せられて現実に返った。

「あゆむ?!お前まさか恋人である俺様のこと売らないよな」

振り返れば焦りとちょっとの苛立ちが滲み出る我がコイビトである会長様の顔。
えぇ、居たんですよ、この人。
冒頭の会計が愚痴ってるところからずっとね。
人をぬいぐるみを抱えるかの如くひょいと抱いて膝の上に乗せるという、男としては屈辱極まりな…げふんげふん、まるで仲の良い恋人のように膝抱っこされながらお菓子を食べてましたけど何か?
ここのところ生徒会の仕事だとか試験とかで中々会えなかったとか補給させろとかなんとか言われて、ぐりぐりと首筋に顔を埋められても平静を保ってましたけど?
だんだんオレのぷりちーな尻に何か良からぬ固さのモノが当たるようになってきても、平然と無視してましたけど?
このくらいで取り乱すくらい可愛らしい神経してません…ていうかもう、ハイハイ勝手に発情しててください、処理はセルフでお願いしますってくらい慣れ過ぎてるのがイヤ!!
賢いオレはそんな事は内心で思うだけに留めて、いかにこのまま仮眠室に連れ込まれないようにするかを画策するのだけども。

「………まさかーボクが会長様を売るわけないじゃないですかー」
「だよな、そうだよな」
「ですよー。あ、神宮司先輩、ボク待ち受けにする写真ほしいんですけど」
「おいおい、最近一緒に居てやれなかったから寂しかったのか?まぁ、しょうがないから恋人のお願いくらい叶えてやるぜ」
「わーいありがとうございますぅ(これでマスターのBD買える!!)」
「…かいちょって案外ちょろいよねー」

え?別にオレ自分の待ち受けにするなんて言ってないもんね?




折角寝顔バージョンとか露出バージョン (全裸にシーツだけで寝てるとことか) とか撮り溜めたのに、副隊長に見つかって敢え無く計画は不実行のまま、無駄にオレのフォルダに会長の写真が残ることになった。
ちぇー…

「ダメに決まってるでしょう。貴方ね、カメラの角度とか考えなさいよ。これじゃあ隊長の霰もない格好でスマホ構えてる姿が鏡に丸映りじゃないですか!!許しませんよヌードなんて。ちょっと聞いてます?」


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