猫かぶりのキミへ | ナノ

 聞くまでもないよね

 目の前でコイビトが鳥の巣頭にキスしていたら、どうすればいい?

1.コイビトに詰め寄る
2.傷ついた表情を見せまいと取り繕いながら食堂から立ち去る
3.泣く
4.目の前でオレを誘惑する日替わりランチ(今日はラザニア)の続きを堪能する

聞くまでもないよね


 オレ的正解は4だよ。
健全な男子校生としては当たり前だよね。午前中体育あったからお腹が限界なんだよ。
あっつあつは猫舌のオレには無理だから少し冷めるまで我慢して、そろそろかなーって時に騒がれても、ねぇ?
なんでそんなタイミングよく口に入れる瞬間にイベント発生させちゃうかなー?
このままスプーンにすくった一口食べていいかな?いいよね、皆視線はあっち向いてるし。

「いいわけないでしょ!ちょっと隊長、他の隊員の目があるんですから!」

えー・・・

まさに口に入れた瞬間、スパーンと小気味いい音が響いて副隊長から愛ある叱責をもらう。

「オレのラザニア・・・」
「んな事よりあっち気にしなさい!!あんたの恋人が未確認生物に接吻かましたあげく殴られてるんですから」
「接吻って・・・副隊長古風だねー」
「そこじゃねぇ!」

首根っこ掴まれて引きずられていった所は、ざわついてる生徒の中でも怒りのオーラが一際濃いところ。
つまりコイビトでありこの学園の生徒会長でもある男がスキーっていう集まりの親衛隊の集団だ。
そしてオレはそこの親衛隊隊長でもある。
隊員である(高校生でその身長どうよ?その可愛さどうよ?な)子達がオレと副隊長に気づいてそっと道をあけてくれるから、すごい人垣なのに最前列に行くまでそれほどかからなかった。
オレが抵抗しないからか、掴むのを首根っこから手に変えていた副隊長がようやく手を放す。

えーオレもう少し副隊長と手繋いでいたかったなー
だってホラ副隊長ってばちょっとネコ目なお目々とサラサラの黒髪が可愛くて天使みたいなんだよ?
オレちっちゃくてかわいい子好きだからさー
そういう子が多い会長親衛隊ってまさにハーレムだよねぇ
・・・・・・惜しむらくは、そんなチワワとも呼ばれる集団に自分も分類されること、かな

■ □ ■ □ ■ □ ■ 

 非常に悔しいことながら、このオレ桐谷あゆむも世間で言われるチワワの部類にあてはまる。
低身長(まだ成長期が来てないだけ)ミルクティー色に染めた髪はクセっ毛の為にちょうどいい感じにクルクルで、顔は母さん似。
自慢じゃないけど、自分の容姿がある程度は整っていて、こんな男だけの学園ではどっちに見られるかも熟知しているよ。
でも、・・・・・・でも、オレはそれでも、あえて主張したい!!

オレはかわいい子が好きなんだ!

もうこの際、この学園に居る限り女の子という高望みはしない(どうせ共学であってもオレの容姿じゃ恋愛対象にはならないだろうし)
ならばせめて、女の子のように可愛いらしいチワワ集団を愛でたっていいじゃない!
今はなんだかチワワ同士が戯れてるようにしか見えなくたって、いつかはオレだってギューンと身長が伸びてチワワ達からラブラブ光線を向けられるような高身長になるんだ!(毎日の牛乳摂取と小魚摂取は欠かせないよ)
と、まぁそんな邪な想いから一番チワワ率が高い親衛隊に入って、毎週のように開かれるお茶会(という名の会長様について語る会)でチワワ相手にほにゃにゃんとして楽しんでいるまではよかったんだよ?
制裁とかめんどくさいからやりたくないし、そんな事してるチワワくん達はかわいい表情が歪んじゃうから周りの子説得して止めてはいたけど・・・
だからって、なんでオレが隊長になってるの?
え?無闇な制裁行為を抑制したのが評価されて?違うって、それ別に隊の為というより果てしなく自分の為だから。欲望(制裁よりチワワと遊ぶこと)に忠実なだけだから!
そんな大いなる誤解の下、いつの間にか隊長にのし上ってしまったオレは、今更本性曝け出すこともできないし、しかも隊長になったら皆とのお茶会増やせたり色々楽しいこともあったので、流されるように隊長をしてきたのだけれど・・・
これまたいつの間にか会長のコイビトとかいう立場になっちゃってて、いやいやまさかそんなの他の隊員が黙っちゃいないよー、なんて反対されるのを期待していたら何故か「アユ隊長なら会長様にお似合いです、僕達応援します」とか、さ、
反対しろよ!お似合いなわけねーだろ!いやだよ、会長ってオレが欲しい身長もチワワ侍らせる魅力も持った、いわばライバルなんだからね!
とは悲しいかな、まさかの皆からの祝福の眼差しとチワワくんのキラキラうっとり〜な視線に圧されて、言うこともできず・・・
オレは不本意ながら会長のコイビトという立場におさまってるわけなのね。

■ □ ■ □ ■ □ ■ 

 そしてなんでこんな長々と《桐谷あゆむ〜挫折と苦難・チワワとオレ〜》の歴史を語ったかというと。


「お、おれは男なんだぞっ!!キ、ききききき、キスとか何してくれちゃってんだよ!」
「はっ、この俺を殴るとはいい度胸してやがんな・・・気に入ったぜ」

――会長様を殴るなんて、あのモジャ髪何様―!

「お前友達の作り方も知らねーのかよ!!友達になりたかったら、きっ、キスじゃなくて、まずは名前を教えるんだぞ!!」
「あ?俺はこの学園の生徒会長・神宮司隼人だ、転入生」
「ハヤトか!良い名前だな、おれは陸!瀬尾陸だ。陸って呼べよな」

――あのモジャ、会長様を呼び捨てにっ!!
――ホント何様のつもりなの、会長様にはアユ隊長っていう恋人がいらっしゃるんだから
――会長と王道と親衛隊長の三角関係キター!!
――っていうか、なんで会長様あんな転入生にキスなんて・・・アユ様は?
――会長様・・・公衆の面前で堂々と、浮気・・・?アユ隊長おかわいそう

・・・まぁそんな茶番が現在進行形で繰り広げられているわけですよ、えぇ。
そして何故か周りから同情の視線が集まっているわけですよ、オレ。
え、なにこれ、オレにどうしろっていうの、別に会長があのモジャモジャ君に乗り換えるっていうなら喜んで身を引くよ。
冒頭で言ったけど、オレ会長がどこの誰とちゅーしてようがそれ以上の行為を見せびらかしてようが、目の前のラザニアを取るつもりだからね。
・・・そうだよ、ラザニア・・・この空気の中席に戻ってランチの続きってダメかな?
ちらりとテーブルに未練がましく視線を流せば、副隊長がダメですよって言うように腕をさり気なく掴んでくる。
あ、やっぱダメ?
こうしている間にもオレのラザニアは冷めていくわけで・・・
え、コレもう諦めなきゃいけない感じ?
オレのランチ・・・うぅ・・・・・・お腹減ったよぅ

「ア、アユ隊長、大丈夫ですよ、か、会長様、きっと何かの間違いですって」
「そうですよ、あんなわけのわからない髪型した転入生より断然アユ様の方が可愛いですから!ね」
「気紛れです、それか何かの・・・気紛れですから!」

今にも鳴りそうなお腹に自然と眉が下がってきたら、周りの生徒が何やら凄く慌てだして慰め始めたんだけど。
・・・コレ完全勘違いされてないですかね、もしかしてオレがあそこで騒いでる人達に傷ついた感じに見えてるのかなー?
えーちょー心外なんだけどー、って心の中で文句タラタラだが、口に出すのは控える。
っていうかさ、もうラザニア冷めちゃったよね?
もうさーラザニア諦めるから何か食べたいんだけど・・・という事でオレはこの場から穏便に脱出して最短でランチにありつける方法を考える事にした。
とりあえず目に涙を浮かべる。
うるうるしてきた視界を少しだけ下に向け、なるべく震える声でそっと囁くように言う。
小さいけど、ある程度の注目が今こちらに向いてるので声は届くだろうという計算。

「・・・副隊長、・・・ボク、先に教室戻っておく、ね」
「わかりました」

すぐ隣から聞こえた溜め息からして、副隊長はオレの演技に気づいてるっぽいけど。
チラリと横目で見た副隊長になんとか視線だけで、ラザニア持ち帰りできたら持って来てほしいなぁ、と伝えてみる。
伝わったのかはわからないけど、そっと目立たないように食堂の出口までの道をあけさせる辺り副隊長って仕事のできる秘書みたいだなーって感心する。
実際、隊仕切ってるのって副隊長だしね。えぇオレはお飾りの隊長です、マスコットキャラ的存在ですよ。
副隊長は影の支配者的な裏番長的な存在ですよ。
相変わらず食堂の中心は、まだ何か騒いでる(ていうかあのモジャッティ声でかくね?)けど、人目を集めてくれるのはオレ的には有難い、っていうかさ、コレもしかして、もしかしなくても、会長ってあのモジャッティ気に入ったのかな?
好きになったのかな?そしたらオレお役御免なのかな?
え、なにそれ・・・めちゃくちゃイイ展開じゃね?
平和的に別れられるんじゃね?
え、コレあれでしょ、「貴方が私以上にその人の事好きになったのなら・・・身を引くわ」的な健気なカンジで終われるヤツじゃね?
え、いいの?
うわーどうしよう、そしたらオレ・・・
これで放課後、会長の部屋に行かなくてもよくなる、・・・ってことだよね?
そしたら溜めてたゲームいっぱいやれるじゃん!マンガも読みまくりじゃんキャッホゥ☆
今日の授業終わったら、ぷーさんにマンガ貸してもらいにいこうかな。

なんて、ちょっと今後の明るい放課後ライフに胸ときめかせていたオレは、なるべくその心境が表情に出ないようにだけ気をつけていたので、周囲の視線がこちらに集まっていることに気づかなかった。
あまりにも多くの生徒が食堂の入口へと視線を向けているので、騒ぎの中心人物もそれにつられてこちらを見たのにも気づかなかった。

「あゆむ」

いざ自由の世界へー、なんて心の中でふざけながら扉に手をかけた時だった。
よく通るその声だけが食堂に響く。
それは、此処に居る誰もが口を閉ざしているからで、そしてその中でも堂々と声をあげられる男はこの学園でも数えられるほどしかいない。

これ振り返らないとダメな状況?

「めんどくさ」

おおっと、つい小声で本音が漏れてしまいましたよ。
オレの口ったらおちゃめさん、でも正直すぎるのは良くないよ、今はお口チャックでお願いしますよ。

気持ちが表情に表れないように気をつけてたら、ちょっと強張った感じになっちゃった。
でもなんか皆の視線が痛ましげ〜な感じになったから、オールおっけってことでいいんじゃないでしょうか。
逆にコイビトの浮気現場を見て泣くのを堪えた感じ?
うん、じゃあその路線でいこう。ついでに今話せるんなら「身を引く作戦」決行しちゃおう。

「居たのか」
「・・・ハイ」

居たのか、なんて白々しい言葉じゃないですかね。
思いっきりそこのモジャッティと熱いちゅーかましてる時に、ニヤニヤしながらこっち見てたじゃないですか。
そしていまだにニヤニヤとこちらを見てくるその視線、なんかムカつくんですけど。目ほじくっていいですか。

コイビトに浮気現場を見られて後ろめたい、なんてそんな殊勝な態度会長はきっとお母様のお腹の中に忘れてきたんでしょうかね。
それはそれはいつも通り威風堂々と食堂の真ん中に王のように君臨するコイビトは、横で顔を赤らめつつも抱き寄せられるままに身を任せているモジャッティをにこやかに見下ろした。
そして挑発的とも言える視線が再びこちらに向けられる。

「瀬尾陸が気に入った。親衛隊の奴らに手を出すな、と言っておけ」

その一言で食堂にざわめきが広がった。
衝撃が駆け巡る。
唇がわなわなと震える。

「それから、しばらく部屋には来なくていい」

ついでもたらされた言葉に内心では拍手喝采だよ、もうどうしよう。
予定通りにいきすぎて怖いくらいだよ。

――そんな!!アユ様を捨ててその転入生をとられるんですか?!
――気に入った、ってそんな見るからに不潔な奴をですか?!!

一部ではすごい勢いで抗議のような声をあげてるし、近くの顔も知らない生徒達はオレの方を心配そうに見ている。
顔がニヤけちゃいそうなのを抑えるのが、さっきよりも辛くなってきた。
どうしよう、あした顔面が筋肉痛になってたら・・・なんてアホな事を考えながらも食堂の中心まで歩いていく。
そのオレの行動に気づいた生徒達が口を閉ざしていくので、会長達の元に着いたら再び食堂は静まり返っていた。

「わかり、ました」

声が震えてしまうのは演技じゃないからね、但し悲しみからじゃなく喜びを抑えているという理由からだけど。
見上げた先には、ホント偉そうな顔。
なんかイラっとしたので、その隣でさっきとはうってかわって静かになったモジャッティを見る。
オレよりちょっと低いその身長は可愛らしいが、その頭の上にのっかった黒い塊はオレの美的センスではアウトだ。
でも、こんな幸運をもたらした存在にオレは感謝の気持ちでいっぱいだ。
そっとその手を取る。

「これは、もう君のものだね」

会長ってばまじ猿かってほど性欲の固まりだから、腰痛と痔には気をつけて。とは心の中だけで送る手向けの言葉。
今度いい薬でも差し入れてあげるからね、と思いつつ、会長の部屋のスペアキーとなるカードを小さい手に握らせた。
ふっアバヨ☆なんて言いたいのを堪える。

「では会長様、その子とお幸せに」

うわ、めっちゃ潔い去り方だよね。立つ鳥あとを濁さず的な?
ちょっと最後の方は気が抜けて顔緩んじゃったけど、まぁ精一杯笑顔浮かべましたーみたいな感じで捉えてちょ。
周りの皆、すごいビックリしてるみたいだけど、これでオレお役御免、ランチにありつけるからオレハッピー、会長も新しい恋人手に入れてラッキー。
ハッピーエンド、だね。


to be continued...?


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