猫かぶりのキミへ | ナノ

 (後編)

 カチャカチャとなるべく鳴らないようにはしていても結局は鳴ってしまう食器の音。
その音に引きずられるように、漸くこの部屋の主はのそりと体を起こした。

「…?」
「目、覚めました?」
「あ、…ゆむ?」

いつもみたいな意志の強い瞳はぼんやりと目の前の人物…つーかオレを映す。
吐き出す息は少し苦しそうで頬も赤い、額に手を当てるとじわりと熱が移る。

「熱測りました?」
「朝に…ななど、ごぶ」
「そ、うですか。じゃあもう一度測りましょ」

呂律の回らない舌でたどたどしく答えるいつもとは違う会長に、調子が狂いそうなのを押し隠して体温計を渡せば大人しく受け取って脇に差す。

「お粥あるんで食べれるだけ食べてください。薬飲む為にも胃に何か入れないとですし」
「何故来た…風邪、移るだろ」

そう、もうここまできたら皆さんお気づきかもしれないが、会長は風邪をひいて今日一日寝込んでいたみたい、まさに鬼の撹乱。
どーでもいい補足をすれば、風邪の原因は先日各部活動の見回りで水泳部に赴いていた時、エロ会計が躓いたのに巻き込まれて2人してプールに落ちたのだとか。
水もしたたるイイ男が2人もできて、水泳部ではトイレに駆けこむ者からプールから上がれなくなった者が続出したとかなんとか。
部員のほとんどが魅力に中てられて、冷静な副部長が来てタオルを渡されるまでびしょ濡れの状態を続けた2人は仲良く今日一日ベッドから出られなかったという。
熱でボーっとしながらも、看病して欲しいけどオレに風邪を移したくないという殊勝な心がけのもと、しかし構われたがりの会長はどーでもいい内容のラインを送っては寂しさを紛らわせていたというのが今回の真相。

「移った時はプリンとゼリーとフルーツポンチ差し入れに持って来てくださいね」

はっきり言って、治るまで数分に一度のラインのやりとりに付き合うよりも、看病してさっさと健康になってもらった方がいいかな、という本音は流石に病人には酷だから言わないでおく。
ほら、これでもオレってばチョーヤサシーから。

「卵粥ですけど食べれそうですか?」
「あゆむがフーしてくれるなら、なんとか完食できるかもしれない」
「大丈夫ですよ、会長が火傷しない程度には冷ましてあるのでフーは必要ありません」
「………」
「食欲あるようなら、食後にりんごのすりおろしとかどうですか?少しだけ凍らせてあるのでシャリシャリして美味しいですよ」
「あゆむが用意したのか?」

にっこり微笑めばゆっくりとだがお粥を口に運びはじめた会長。
従順な病人だと看病も楽だなぁと頷きながら、オレは薬の準備をしつつ冷凍庫に眠る隊員の子が持って来てくれたりんごのすりおろしをいつ出すか考えていたのであった。

■ □ ■ □ ■ □ ■ 

「ちぇー…結局たいちょーさんは来てくんなかったかぁ」
「当たり前じゃないですか、だってアユくんは会長様の親衛隊なんですから。ほら朝倉様、鼻水ズビズバですよ、チーンしましょうね」

隊員達に聞くまでこちらも親衛対象が不在だったことに気づかなかった会計親衛隊隊長は、夜になってやっと会計の部屋へお見舞いにやってきていた。

「…やだよ。かんだティッシュ小瓶に入れて売りそうだもん」
「あれー?気づいちゃいました?じゃあ看病代ということで熱でエロエロになった写真だけでいいですよ」

ちょっとはだけた方が皆喜んで買ってくれるんですよー♪なんて言いながらボタンを2つはずす己の隊長を見下ろして、会計は親衛隊ってなんだっけって思ったとか思わなかったとか。

to be continued...?


novel top/series top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -