猫かぶりのキミへ | ナノ

 尻に敷かれてなんぼと諦めろ(前編)

そう、違和感というか、…はっきりぶっちゃければうざったさは朝から感じていた。
え?何にかって?

ブブブブ…

このバイブの音にだよ


尻に敷かれてなんぼと諦めろ



画面をすばやくタップして操作する。

「隊長、さっきから忙しそうですね」
「うーん、…ん?いや別に他愛もないただのメールだよ」

横で柔らかなスポンジにフォークを刺す副隊長が、親衛隊のお茶会中何度もスマホをいじるオレを流石に不審がったのか怪訝そうに聞いてくる。
が、大したことではないのでさらりと流す。
そう、そんな事よりも重大重要な事が目の前にあるからね。

「むはー…今日のも、なんとも言えない幸せ」

米田くん、今回のシフォンケーキもまた絶品ですねーオレもう舌がとろけちゃうよ

最近恒例になっているお菓子作りが得意な米田くんによるデザートが、オレの目の前に鎮座ましましてらっしゃるんだよ。
将来パティシエを目指して日夜頑張っている米田くんの作るスイーツは回を追うごとに上達していって、今ではそこらへんのお店で売ってるのに引けをとらないくらいだとオレは認めている。
これはもう本来なら、スマホ片手に味わうなんて失礼なほど美味しい代物なのだ。
はいそうなんです、今まではそらもう真剣に目の前のスイーツを堪能しておりました毎日ゆえ、今日に限ってスマホを何度か操作するというオレの行動は珍しいものなのですよ。
そりゃ副隊長も不審に思うよね、しょうがない。

「アユ様、今日のフレバーティは僕の実家で取り扱ってる最高級品なんですよ」
「そうなの?すごく香りがいいね」
「もし宜しかったらまだ茶葉があるんですけど、お譲りしますよ」
「わ、いいの?嬉しいな」

まだちょっと納得いってないような副隊長の視線を感じながらも、隊員の子達と楽しくお喋り。
弾む声と甘い香り、可愛らしいチワワのような生徒に囲まれてアニマルセラピーを受けてる気分。
ホント癒されるわー。
いつもと代わり映えのない楽しいお茶会に、またもや無粋なバイブが鳴って、少しだけ口を尖らせる。
今度は画面に出る差出人を確認してそのままテーブルに伏せる。

「隊長、さっきからなんなんですか、無視したり返したり。目の前でいつもと違うことされると非常に気になるんですけど」
「えー、副隊長ったらそんなにボクの私生活が気になるのー?やだあゆむ照れるぅ」
「茶化さないでください。何か用事があるのなら、今からでも」
「ちょ、そんな大層なことじゃないから、だからボクのシフォンケーキしまわないで」

悲鳴をあげつつ目の前のスイーツを魔の手から死守するオレ。
副隊長ったら非情!!できたてを食べるのが一番おいしいのに。
このままだと優雅なお茶会存続の危機じゃない?と予感したオレはしょうがないのでメール、というかラインの相手を知らせることにした。
そしてさっさと納得した副隊長を横に、心おきなく目の前のスイーツとかわいいチワワを堪能しようと思っていた。

「会長様?」
「そう、で、さっき無視したのは会計さん。なんか今日はやたらとどーでもいいことばっかり送ってくるんだよねー2人共」
「この時間帯は生徒会のお仕事中でしょう、珍しい…というか、本当に内容は“どーでもいい事”なんですか?もしかしたら隊長に大事な用でもあるんじゃ」
「ナイナイ。朝から『朝飯食べたか』とか『今何の授業だ』とか『今度調理実習でつくったもの食べさせろ』とか本当にくだらn、…他愛も無い内容だよ」

おっとつい本音が、と素直すぎるお口を内心で叱咤する。
ていうか、こんな内容にちゃんと律儀に返すオレを誉めてほしいくらいだよ。
おかげで今日かなり電池の消費が激しいんだから。

「アユ隊長、相変わらず会長様と仲睦まじくていらっしゃらるんですねー」
「会長様って意外にマメな方なんですね」

いやいやなんでそこで温かい目で見守る系の雰囲気になっちゃってんの?
今の会話だけだとほんわかするかもだけどね、こっちとしては朝から何度もスマホ見る羽目になってこの上なくうっとーしいんだけど。

「…会計様はなんて?」
「えー…と、『おれねー薬とか苦手なんだよねー』『おじや食べた―い』だって」

会計ってあのアラヤダ遭遇事件以来、いつの間にかメアド交換してて返す必要性のないようなものばかり送ってくるから、最近では読んで心の中でハイハイと頷いて終わらせている。
っていうか、あのチャラ男オレは日記でもブログでもねーんだからいちいちその日の食事とか好みがどーとかイチイチ送ってくんなうぜ…ちょっと迷惑だなって思う。
オレ的には会長も会計も同レベルの内容だが、一応会長はコイビトなので返信しているわけだけど。

「アユ様、会計の朝倉様ってお風邪でも召されてるんですか?」
「え?そーなの?(別にどーでもいいけど)」
「そういえば今日一度もお姿拝見してないよねー」
「それを言うなら会長様だって、あの麗しい御尊顔を今日は一度も見れてないよ!!」
「生徒会のお仕事かなぁ?」
「でも副会長様は体育の授業でお見かけしたけど…」

へー…皆結構生徒会の連中を見てるんだねー(親衛隊として当然)

なんだかチワワ達が集まってきて心配気な表情で相談し始めたけど、ぶっちゃけオレ的にはこうしてラインしてくるくらいだし特に問題ないんじゃないかと思っている。
というより、会計の心配は会計親衛隊にさせとけばいいんじゃないかと思うのって、ダメ?
すごい不安そうにオレを見てくるチワワ達はかーわーいーいーけど、この空気の中呑気にシフォンケーキのおかわりしちゃ…ダメ、ですよね、ハイ(副隊長が般若みたいな顔で空気読めってオーラだしてた)

「ちょっと隊長、少し調べてみた方がいいんじゃ、」
「その必要はないよ」

副隊長によるオレの素敵☆スイーツタイムの終了を宣告されるのを遮った声は、いつの間にかこの場に出現していた雄二だった。
突然の副会長の登場に隊員達が色めき立つ中、しかしこの幼馴染みの登場がはっきりいってオレの望む方向に好転するかというと今までの経験からして八割方そうでなかった事から、オレは自然と顔を顰めてしまう。
爽やかに笑う様が余計に胡散臭い。
面倒見が良くていつも微笑んでいる副会長が、実はめんどくさがりで興味の無い事はさらりと流す冷血漢だってことを小さい頃から一緒に居るオレは知っていた。
案の定、雄二が次に告げた内容は、理不尽にもオレとシフォンケーキとのランデブーを強制終了させるには十分な効力を持っていた。



novel top/series top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -