Short | ナノ

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ツイてないっていうのは、悉く全てが悪い方向に向かう日の事をいうんだろう。


恒例のよっちゃんとの囲碁中、お茶受けにと出されたお菓子が睡眠薬だか入ってて2人して寝過ごす羽目になった。(化学の永倉先生がよっちゃんを実験体に使おうと画策して薬入りお菓子を差し入れたらしい)
気づいたら消灯間近な上、猫に変化直前だった為急いで寮に帰った。
ざわざわと変化する気配を見せ始めたところで、鋭くなった聴覚が不穏な会話を聞きとった。

「…体育館…に、……閉じ込めて」
「あの方達と…夜を過ごさ…なんて…だから!!」

おいおいおい、ほんとこの学校なんでこんな陰湿なことが日常茶飯事なわけ?
なんて思いながらも人としてこれは見捨てられないだろう、なんて正義感を出したのが間違いだったのか?

まだ猫になるまで少し余裕があるだろう、と判断して、体育館まで向かうと例の後輩君が辺りを見回しながら倉庫まで進んで行くのが見えた。
いやいや君、ちょっと狙われ過ぎじゃないかね、なんて心中で呆れつつ時間も無い為さっさと声をかける。

「もう部活の奴らも帰ったのに、こんなとこで何してんの?危ないから早く寮に帰ったら?」
「え?あ!!……あの、携帯を…忘れちゃった、みたいで」
「番号は?」
「…え、」
「だから携帯の番号。かけてあげるから着信の音で探した方が早いでしょ」

なるほど携帯を隠されてここまで来たのか。
さくさくと進めてちゃっちゃとこのきな臭い場所から離れてもらった方が、この後輩にとってもオレにとっても最善であると判断してスマホに聞いた番号を入力する。
今のオレならたとえ隠されてる携帯の音でも拾えるだろうし、閉じ込められそうな倉庫には後輩が入らないようにして携帯ゲットして寮まで帰らせれば万事解決。
案の定、音も光も漏れないようにかマットの間に隠されていたそれを難なく見つけて、目を丸くしている後輩君に渡してお礼を言われたところで、そろそろホントにヤバいなと実感。
五感だけじゃなく肌がむずむずし始めて、これは寮まで保たないなー、なんて。
しょうがないからしきりに頭を下げる後輩君を送り出して、万が一にも誰かに見られないように倉庫まで逆戻り。
隅の方で隠れるようにして、猫化に備える。

「…っ、…ぁ、」

魔法のようにくるりんと回って変身なんて華麗なものじゃなく、多少なりとも体が変わることに対する痛みというか圧力がかかる感じに耐える。
今では毎度のことだからこの数秒か数十秒の間くらい声を抑えられるようになってきたが、最初の頃はこのなんともいえない感覚に転げ回ったものだった。

《…あーあ》

先程までと視界が全然違う、というか真っ白なシャツに覆われてるんだけど。
体にかかるさっきまでぴったりだったシャツから抜け出して、溜め息ひとつ。
なにが面倒って、部屋以外で変化しちゃうと着ていた服の後始末に困ることだよな…いっそ服も変身に含まれればいいのに。
制服一式を小さな猫の身で持ち帰るのなんて到底無理だし、ここでずっと制服と一緒に夜なんて明かせない(腹へった)
見つからないように隠して明日こっそり取りにくるのが得策かな、なんて考えつつ、籠の影に猫の手で押し込んでいると覚えのある気配に冗談でなく背中の毛が逆立った。
それはもう、ぶわーっと。

《え、…なんで奴が?》

「あれ?ここに入ったと思ったんだけど…小野寺―、居る?」

まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい
え、なんでいんの?なんで委員長がここに来てんの?!
なにこのハプニング誰も期待してないよ!!

制服を目にも止まらぬ猫パンチで隠しきって、自身の隠れるスペースを探す。
ここからの脱出が一番望ましいけど、オレの華麗で素早い身のこなしでも委員長が立ってる入口は何も置いてないので見つかる可能性の方が高い。
さっさと立ち去ってもらって、ほとぼりの冷めた頃に此処を出るのが最善だ。
混乱しながらもそんな計算を瞬時にして、辺りを見回す。
見つかったらヤバいよなコレ?
何故か(人間の)ここにオレを探しに来たらしい委員長が、オレの制服一式+猫だけを見て何を考えるか…
すぐに猫=オレと結ばなくても、下着までここに置いてるオレの変態疑惑が浮上しかねない。
なんて、色んなパターンの未来がオレの脳内を駆け巡ってたところ、

「あのっ、ここもうすぐロック掛かっちゃうんで出た方が良いで、ぅわ、」バッタン「す…よ?」
「ん?」
「……あれ?」

ピー がちゃ

「「……」」

なんだ?

入口の方でもう一人の気配を感じ、更に奥の方へと逃げていたオレにはいまいち状況が把握できないが、なにやら緊張した空気が漂ってきた。


これが世に言うお約束の展開ってやつですか


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