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 6

月夜の間だけ変わる体も
鋭敏になる感覚も
オレは甘んじて受け入れていた。
悲観的にはならず、むしろ普通ではできない体験だとポジティブに考えてもいた。
この前までは。

だけど流石に今は、この身の不幸を嘆きたい。




「悠どうした、そんな暗いオーラ丸出しで。何かあったのか?」
「……」
「もしかして掘られたとかー?」
「こら、志野下品」
「冗談だぁってー」
「……」
「え?もしかしてマジなの、え?!まじなの」
「……違う。けど悪い、今は放っておいてくれ」

あくまでも重くならないよう軽口のようにして心配してくれる志野達の気持ちは解っても、いつもの調子でふざける余裕のないオレは、謝りつつ2人から顔を逸らす為に机に伏せた。
暗くなった視界、より鋭敏になる聴覚がいつもなら周囲の状況をまるで見ているかのように伝えてくれるが、今は自分の内に閉じこもるようにして感覚を意識的に閉じる。
朝から、いや昨日の夜更けからずっと、オレはこの調子だ。
志野が対応に困る程には暗い、というかもうこの世の全ての闇を背負っている感じだ。(なんか表現が中二っぽくなったのが余計に落ち込ませる)
嘆きたくもなる。
何があった?だって?
オレの人生での大失態を、記憶から消し去りたい抹消したい出来事が、昨日!昨夜!イエスタデー!あったんだよ。
昨夜、事もあろうにオレは……

オレは、
あの委員長相手に、
……擦り寄ったんだぞ?!
猫のように(いや猫だったんだけども、けど中身はオレだぞ?!)
挙句の果てには、
ゴロゴロと喉をならして…ならして、

「ああああああ〜っ」

くそはずかしい、恥ずか死ぬっ!!
何が嬉しくて同じ年の、同じ男相手に、懐かなければいけないんだ!!!

急に悶えだしたオレを周りの奴らが奇異の目で見ようが、今は構っていられない。
問題は、あれが意識して行動したわけじゃないっていう点だ。
体が勝手にというか、力が抜けるというか…
とりあえずオレは昨夜確信した。
今まで委員長に危険を感じていた第六感は正しかった…奴は動物に好かれる体質らしい。
無意識に体が委員長の言う事を聞こうとしてしまうというか、撫でられたら力が抜けるくらいに気持ちいいというか、もう好きにして!状態になって完全降伏してしまう。
もう腰くだけだ。
……絶望だ。
結局あの後、保健のじーちゃんが戻って大人しく手当てを受けた後も委員長の撫でられるがままに成すがままだったという事実が、今のオレをどん底の気分に陥れている。

そうだ旅に出よう
流離いの旅に出て、あの魔の体質野郎に打ち勝つ精神力を身に着け、

「小野寺まだ体調良くなってないのか?なんなら保健室に行く?」

気遣う声が聞こえたと思ったら、さらりと頭を撫でられる感触がした。

すり…

「ん?」
「ん、もっと…」

………………

「オオオオオオオオオ、オレ、ほけんしつ、いく」
「え、あうん行ってらっしゃい?」

がばっっと勢いよく体を起こして、今世紀最高のタイムで机と人という障害物をすり抜けて教室を出た。

ああああああ、何をオレは、え?オレナニシタノ?え、ナニモ?
甘えた声とか出してませんけど?
頭撫でるの催促なんかしてませんけど?!
ぐりぐりと委員長の掌に頭摺りつけたりとか…してましたよねぇええええ

危険だ。
まさかと思ってたけど、猫の時のみならず人の時でもあの妙な体質に影響されるなんて。

保健室に駆け込んだオレは混乱のままに、叫んだ。



誘惑に勝てる薬をください!!






「あの怪我…」

保健医に頭の心配をされて休養を強制されていたオレは、逃げるように教室を出て行く瞬間見えた手の傷に対して委員長が考え込むようにしていた事を知らなかった。


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