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(sideとある平凡な生徒)


 同室者のおかげというかせいというか、とりあえずここ最近の状況から予想はついていたけどでもなんだってこんな周りに誰も居ない時に(あぁ普通はそれを狙ってやってくるのか)なんて思いながら突然現れた人達による制裁とかなんとかというお門違いな暴力に曝されそうだった時に助けてくれた野良猫の怪我の治療にと救護室にやってきたんだけれども。
襲われた恐怖とか助かった安堵とか最近よく会う野良猫が庇ってくれた不思議とかその猫の怪我とか、色々な事に気が動転して混乱のまま救護室で留守番をしているという先輩にぐちゃぐちゃな思考のまま話す。
多分あんまり伝わってないようだけど、とりあえず要点である猫の治療が目的なことは理解してくれたようで手際よくいくつかのビンを用意し始めてくれた。
動揺していた気分は、しかしこの救護室に入ってからというもの腕の中でじたばたと逃げようとする猫に気をとられて吹き飛んだ。
というかかなり本気の抵抗に、抑えるのに必死でそれどころではなくなった、というのが正しい。
にゃーにゃーと喚きながら暴れる猫をなんとか宥めようと声を掛けるが、普段大人しいのが嘘みたいに体を捩らせ足をばたつかせて僕の腕から抜け出そうとする。
救護室の匂いとかがダメなのかな?
確かに消毒液とか薬とか特有の匂いがするけど、別に君を傷つけるわけじゃないよ、と言葉が通じるわけでもないのに潰さないようにしながらも腕に力を入れて抱きしめる。

「すっごい暴れてるね…怪我はどこなの?」
「あ、右足なんですけど」
「わかった。抑えといてね。…こら、大丈夫だよそんなに暴れ無くても痛くないから」

消毒液につけた脱脂綿片手に先輩が近づくと、余計に猫は暴れ始めた。
これは治療は無理かな、なんて思いながら振りまわされる右足を掴もうとするが片腕だけで抑えるのは難しそう。
困り果てて先輩を見上げれば、暴れる患者に苦笑しつつも足を抑えるのを買って出てくれた。
短時間で済ませてあげようと拘束を強めようとしたのだけど、先輩が安心させるように柔らかい声を出して脅えないようにかゆっくりと猫の頭を撫でると…

んにゃ…ぁ

撫でると途端に猫は大人しくなった。
さっきまでの暴れようは何処へ行ったのかと問い詰めたくなるほどに、腕の中の猫はもっと撫でろと言わんばかりに頭を先輩の手に押し付けている。
え、なにこの態度の差……まさか猫までもがイケメンに弱いとでもいうの?

「ん…いいコだね。足見せてね」

まるで陶酔しているかのようにトロンとした瞳で先輩の言う事を聞く猫。
何度か見かけて最近では愚痴りつつお菓子をあげていても今まで見たことのない態度をとる相手に同一人(猫か)物だとは到底信じられない思いで、落ち着いた猫をぽかんと見る僕。
呆気にとられた僕を一人差し置いて、簡単に傷を診ている先輩とゴロゴロと喉を鳴らす猫。

「えーと、先輩、猫の扱い方上手い?ですね」
「そうかな、動物は飼ったことないけど。あぁでも昔から野良犬とか野良猫はこんな感じで懐いてくれてたなぁ…」
「はぁ」
「傷は浅いみたいだけど、ナイフって言ってたよね?一応この後帰ってくる先生に診てもらった方がいいと思うんだ」
「ですね」
「君はとりあえず風紀に行った方がいいかな。ナイフで襲ってくる相手に関して報告しないとね」
「ですよね」
「よかったら、このコここで預かろうか?そしたら戻られた時にそのまま診てもらえるし。君のペット?」
「いえ野良猫なんです。でも、いいんですか?」
「もちろん。退屈な留守番の相手が欲しかったところなんだ」

にっこりとほほ笑む先輩と、あごを撫でられてお腹まで見せている猫を、どこか放心しながら見下ろす僕は「じゃあお願いします」と頭を下げて退出する他なかった。


あれ?なんか僕お邪魔虫?だなんてちらっとでも思っていない


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