Short | ナノ

 2

「実験の経過と結果は各班レポート提出のこと。以上、質問無いなら実験開始」

無駄のない指示にも慣れたように適当に座っていたテーブル同士で班を作り、それぞれ器具や薬品の用意に動きだす。
オレ達も足を捻っている守也をレポート記入役にして指定通りに決められた作業にうつった。

「しっかしウチのクラスはあれだな、平和だな」

薬品の独特な匂いが染みついたこの教室での実験はあまり好きではなく、一刻も早く時間が過ぎないかと時計を睨んでいた時の不意な言葉だった。
オレが読み上げる数値を少し角ばった文字で記入していた守也の急な発言に首を傾げる。
志野は意味がわかったように頷いてるので、更に首を傾げると守也が周りを見るように言ってきた。

「皆実験してるな」
「そうじゃなくてさ、この班構成って自由じゃん?大抵仲良い同士とかで組んでてさ」
「そうだな…それが?」
「つまりー守也が言いたいのは、ウチのクラスはあぶれる奴が居ないってこと。他のクラスはイケメングループと親衛隊グループとそれ以外って感じでなんか派閥とかあんじゃん」
「そうだけど、ウチそういう層少ないからじゃね?」
「居ることには居るじゃん。でもクラスで1番のイケメン岡崎も親衛隊所属の沢部もオタク系の安西とか山下とかと普通に話すし、つーか班組んだりしてるし」

確かに周りの班には、他のクラスでは系統ごとに固まりがちな兆候は見られない。

「流石にうちらC・DクラスはSやAクラスみたいなイケメン派閥とか親衛隊派閥は少ないからそういう制裁だとかの関係は無いけど、なんとなく隔たりあるもんだろ。偶に話すけどなんとなくオタク同士で集まったり、文化部とか運動部とか。しかととか喧嘩でも無いけど、学園祭とかでもなきゃ同じクラスでも話さない奴居たりさ」
「Dもここまで仲良くないよねー」
「なるほど」

仲良き事は美しき哉、ということだなという結論に達し、少しつんと鼻が痛くなってきたので適当に返しておく。

「なんか反応うっすいけど、案外これ悠のおかげもあるよねーって話だからね」
「なにが?」
「なにがって、悠がイケメンとか親衛隊とか関係なく話したりするのも平和である要因の一つだろって話」
「オタク系とかとも普通に会話するし、本ばっかの青山にも気軽に話しかけるおかげで俺達も接し方がわかったっていうのもあるし」
「そうか?オレはただ席近くなった奴と話してるだけだけど。……むしろそれを言うなら、委員長の方がそうだろ」
「あー長谷川はあれだよな、爽やかというか博愛主義っぽいというか」

話が他に逸れたのをいいことに、得るべき結果を得た実験を終わらせることにする。
いつも片付けを終了させ実験結果と考察をまとめた班から解散できるので、今回も率先して片付けへと回るオレの行動は不自然じゃない。

「ちょっといいかな?」
「あれーいーんちょー」
「相変わらずこの班は手際いいね。これ来週の授業までの課題だって」
「さんきゅ」

ぞくりとする背筋を伸ばして、容器を洗いに席を立った背後で交わされる会話に耳を傾けないように足を速めた。



○ ● ○ ● ○ ●



 行動はさりげなく、かつ慎重にしていたはずだ。
なのに何故バレた?
しかも守也ならともかく、あののほほんとしている志野にだぞ(←失礼)

苦虫を10匹は噛み潰した気分になりながら、先程のやりとりを思い返す。

「悠っていーんちょー嫌いなん?」
「……は?」
「だってさりげなく避けてる感じするし、いーんちょーだけ名前呼ばないじゃん」
「…志野だって呼ばない、だろ」
「俺はあだ名だし。結構他の奴にもあだ名で呼ぶもん」
「もんとか言うなきしょい。……あれは、苗字が同じ奴が前の学校に居たから」
「そーなの」
「そーなの…なのって言うなきしょい」
「悠ちゃんったらいけず」


《けっ、いけずで悪かったな》

ついつい吐き捨ててしまうが、今の状況を思い出して慌てて周囲の様子をさぐる。
昼よりも何倍も良くなった聴覚と嗅覚を信じるなら近場に人の気配は無いようなので、再び歩を進める。
ただし数時間前とは違って、今度は4本の足を使って、だ。
どうせ人が居てもにゃーにゃーとしか聞こえないだろうが、前回気にせず喚き散らしてたら猫好きの生徒会長に見つかって不本意にも数時間捕まってしまった経験があるからして用心するにこしたことは無いのである。

もうお分かりだろうが、オレは只今絶賛猫になっている。

何の因果か先祖代々よくわからん呪いとやらのせいでファンタジーな目に遭っているが、月に数日夜だけの変身はそこまで悲嘆に暮れることではない。
確かに課題をやる時間だとか友人と遊ぶ時間は減るし、猫になると部屋の電化製品が扱いづらくなるが、慣れてしまうとこれもまた一興という感じ。
なにより人である時にはできない運動神経の向上は楽しく、ついつい3階の自室からそれはもう立派な空中3回転を決めつつ地面に着地しては遊んでしまう。
これオレオリンピックに出れるんじゃね?なんて冗談を思いながら、今日も満月が辺りを照らす夜道を悠々と散歩中のオレ。
見咎められても所詮猫、まぁ偶にいけない情事中のヤロー共に出くわしちゃったりもするけれど、寮の管理人がお菓子くれたり警備員がおもしろい学園の裏話をしてくれる。
つまり、結構楽しんじゃってるオレは、それでもこの事がバレないように細心の注意を払っている。
人の姿に戻っても通常より鋭い嗅覚や聴覚を誤魔化すのには慣れてきているが、しかしどこでどんな風にバレるかわかったもんじゃない。
だから少しでも危険な事には近づかない。
そう、だからあの委員長にもなるべく接触をしないのがこのオレの1年の課題なのだ。
別に委員長を生理的に嫌いとかそんなんではない。
ただ…奴は、危険だとオレの猫に変身するようになってから強くなった野生の勘が告げるのだ。
近づくな、と。
その勘に従って、さりげなくだが的確に委員長を避ける日々になってるわけなのである。

誰にもこのオレの青春猫ライフを邪魔させてなるものか


novel top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -