Short | ナノ

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月夜の間だけ変わる体
鋭敏になる感覚

何代か前の先祖がかけられた呪いだとか、妖の血が流れているからだとか原因ははっきりしないけど
オレにとっては夜だけ何故か猫になってしまうという、それだけが事実

実験室行きだけは避けたいから、周囲にバレないようにするのは面倒だけど
普通だったら中々味わえない体験ができるのも楽しいよねって感じでポジティブシンキングなの、オレってば


そうして今夜も寮から抜け出して夜の散歩に繰り出すこの時のオレは、数日後に味わう屈辱をまだ知る由もなかった



○ ● ○ ● ○ ●




所詮男子だらけの学校なんてお金持ちだろうが庶民だろうが変わんない。
授業の合間の小休憩の時間なんて、大抵娯楽か恋愛か勉学についてがやがやと騒がしくしている。
まぁ、この学園に限っては恋愛の対象が同性だったりもする点はちょっと違うかもしんないけど…

「おーい悠、これ借りてたマンガ読み終わった。サンキュな」
「それ次稔に貸す約束してんだわ、良かったら渡しといてくんない?」
「らじゃ」
「悠、放課後数準に来てくれってよっちゃんから伝言」
「えーまた?」
「よっちゃんと放課後2人っきりでナニしちゃってんの?ねぇねぇ、もしかしてイケナイ個人指導とkぶふぉっ」
「惣輔、てめ、変な妄想繰り広げないでね。よっちゃんとはただの囲碁仲間だから」
「なーんだー…」
「小野寺、ノートありがとな」
「んー、オレので大丈夫だった?」
「うん、まとめが上手くてわかりやすかった。よだれの跡もあったけど」
「そこはスルーしておいて…お礼は今度青山の英語のノート貸してくれればいいから」
「あれ?ジュースくらいなら奢るけど」
「いいよ、それより青山の英語ってネイティブ感あってわかりやすいし」
「そう?じゃあ必要になったらいつでも言って、優先して小野寺に貸すから」

それでもオレのクラスはどちらかというと外部編入が多くて、生粋のおぼっちゃまやきゃぴきゃぴした親衛隊系は少ないので割と普通だと思う。

「悠―次移動だから行こうぜー」
「おー」

いつも行動を一緒する友達に誘われて、教科書とノートを持って入口にいる長身2人の元まで駆け寄る。
バスケ部所属の2人とは、1年の時の集団感染とかでレギュラーが悉く倒れた事件で助っ人として呼ばれたことをきっかけに仲良くなった、この学園では数少ないノンケ組である。

「あれ、守也怪我でもしたのか?湿布してるだろ」
「げ、そんな臭う?保健のおっちゃんに無臭のやつ貰ったんだけど…」

匂いは足元からしてるのに、眉を顰めて確認するように腕を上げて嗅ぐ守也。

「朝練の時ちょっと捻ってたんだよな守也は。しかも集合かかった時に躓きそうになったのを誤魔化そうとしたのが原因という恥ずかし―理由もある」
「こらてめー志野、なんでお前はいつも余計な一言を付け加えるんだ」

ニヤニヤと覗きこむ志野の頬に伸びた守也の指が恨みがましく食い込む。
よく伸びる頬に感心しつつ、日常的になってる友人2人のじゃれ合いを微笑ましく見ながら歩を進めると、おそらくはこれ以上己の頬が伸びるのを心配したらしい志野が話題転換を図った。

「イタタタ…でもそんな湿布の匂いするー?俺わかんないよ」
「お前は鈍感だから信用ならん」
「酷ぇ!!ちょっと悠ちゃん何か言ってよー」
「確かに志野の鈍感さには賛成だけど、オレも匂いはわかんねーよ。さっきのは、…裾からチラっと湿布が見えたから」
「あ、そなの?」

納得したのか安心する守也の足に負担にならないように、3人比較的ゆっくり歩いて特別教室へと向かう。
これがオレの日常、なんでもない友達とバカな会話をしつつおくる学園生活だった。

「ねー、キミタチ結局俺のフォロー忘れてない?いいの?このままだと志野ホントに鈍感キャラになっちゃうよ!!」
「きしょ!ぶりっこすんな志野」
「フォローできるくらいの人物に成長しろ志野」
「もう俺のガラスのハートは粉々よ」


平凡な日常こそがなによりの幸福だ


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