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それだけ、なのに。
……あ゛−もうっ!!

くるりと向きを変えて走り出す。
目標は寮の自分の部屋、じゃなく、この姿では馴染み深い寮監室。
あの人の好い管理人さんならきっとついて来てくれるはず……って開かねー!!部屋電気点いてないし、え、ちょ、管理人さーんっ!!
しばらく扉をカリカリしてみたが、居ないのかぐっすり寝てるのか一向に反応なし。
管理人さんがダメなら、この時間帯でオレが頼れる人物あと一人なんだけど。
守衛さんは遠いし、おじいちゃん先生は寝てるだろうし。
でもちょっと抵抗あるっていうか、…あーもう、わかったオレが決めちゃったことだし、やれるとこまでやるよ!

誰にでもなくぶつくさと文句を言いながらも身を翻して入って来た窓からするりと出て建物の裏まで周る。
行った事は無いし誰でも簡単に入れるわけじゃない、おまけに気が進まない、けど今のオレなら多分なんとかして登れる位置にある部屋。
目指す部屋はここの最上階。
そう、猫好きの生徒会長の部屋である。



少し遠くでピーと解錠された電子音に混じって数人の声が聞こえる。
多少落ちたとはいえ普通の人間よりも優れた聴覚は、慌ただしい足音や状況説明をする委員長の落ち着いた声、それと保健医に簡単に体の具合を聞かれて応える声も拾う。
無事なようで良かったと安心する。
折角人が苦労して助けを呼んだんだ、これで手遅れでしたなんて後味悪過ぎだ。

因みに、会長は眠っていたけど窓の外からオレが鳴けばすぐに起きた。
流石猫好きと感心すればいいのか、そこまで好きなの?!と引けばいいのかわからなかった。
寝ぼけながらも窓の外で鳴き続けるオレを部屋に招き入れ、撫でようとする手から逃れて距離をおいてからする悩殺ポーズにイチコロだった会長はデジカメ片手にオレの後をついて来た。
あとは少し進んでは振り返って愛想を見せ、捕まえられる前にまた少し進んでは愛らしい声で呼ぶ、の繰り返し。
こんなの会長が芯から猫好きの変態じゃないと成功しなかったことだけど、今回だけはその変態ぶりに感謝だ。
いやむしろこんな方法でほんとについてくる会長が少し心配だよ…
何はともあれ体育館倉庫までそれを繰り返し、ようやく誰かが来た事に気づいた委員長達が助けを求め、あれよあれよと人に対しては有能ぶりを発揮する会長によって閉じ込められた2人は助けられたのであった。
これにて一件落ちゃ…「へぶしっ」…く、と言いたいところだけど。

「…2人とも無事ならさっさと出てけよ…」

何を隠そう、会長を誘導することで時間をロスしたオレは部屋に戻るのにも間に合わず咄嗟に隠れた体育館の二階の隅で、人間に戻る羽目になったのだ。
早朝のこの時間帯はまだ冷えるのに、全裸に暗幕はキツい。
こうしてオレは不本意にも、休日の朝を体育館の隅で過ごしたのだった。

本当に、今週のオレってばツイてない…

ラッキーアイテムでも身につければこの災難から逃れられますか




「…ぶしっ…くしゅっ…」
「小野寺、風邪」
「…まぁ…!!!なに、すんの」
「そんな遠ざからなくても。ちょっと熱を測ろうとしただけだよ」
「熱はないから平気…は、くしっ」
「お大事に。あ、ねぇ小野寺、何か香水とかつけてる?」
「?匂いキツいの好きじゃないから何も」
「じゃあシャンプーとかかな?いい匂いしてるね。猫とか飼ってるの?」
「…は、なしがとんだね」
「ん?あぁ、ごめん。なんか小野寺の匂いがこの前会った猫と一緒だなーって思って」
「?!?!?!あ、あーねこ、そうネコね…猫、うん、えーと、…いつだったか偶然たまたまばったり猫に会って撫でまわしたよー、な?」
「あ、そうなの?もしかしてそれって先週体育館辺りでかな」
「そうだった気が、する」
「それでかーなるほど。あの猫人懐っこいよね」
「ネー。ハハハ……」

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