それは至上の | ナノ

 7

森の一族であるリーラの作る食事は、食材全てに森からの恩恵が宿っている。
おいしいのは勿論のこと、普通の食事より霊的な力を回復できるという点で今のクローディアにとってこれ以上ない程の糧となった。
用意された服は簡素ではあったが清潔にされているので、今まで上等な布しか身に纏ってこなかったクロ―ディアも抵抗なく着れた。
なるべく質素なものにしたがそれでもどこかのお忍び貴族かという程には高そうな生地を使った先程までの服よりは、旅人風の雰囲気が出てきていいんじゃないかというキアラのお墨付きだ。

「お礼、言い逃しちゃったな」
「……別に、すぐ言えるさ…ほら、」

促すようにドアの方に顎をしゃくるキアラにつられて意匠を凝らしたドアに視線をやると、唐突にまた来訪者によって開けられるそれ。

「……べ、別に着替えを覗きに来たわけじゃ、ないからな」
「アミール、ほとんど終わってるからそこまで動揺すんなって。これさんきゅーな、着心地いいわ」

ボタン数個とめる途中だったくらいで珍しく微かに頬を染めて顔を逸らした友人。
別にオレ男だから見られて困るモンでもないのに、なんて思いながら礼儀正しい彼女に苦笑した。
それでも頑なに逸らした視線をドアに固定したままのアミールの様子に素早く残りの着替えを済ませる。

「服だけじゃなくて、食事も。ほんとにありがとう。感謝する」
「以前城での借りを一つ、これで返したまでのことだ」
「ほんと義理固いんだからなー。今回はマジ助かった、けどいいのか?オレを見逃したことがバレたら、…流石にヤバいだろ」
「我らの結束は固く、仲間から伝わることはない。例え外部からの調査で明らかになってしまっても、…そうだな、キアラ・キラリーという旅人の変装が上手過ぎて分からなかったとでも報告しよう」

いつの間にか向き直ってくれたアミールの表情は、城で何度も見せてくれていた友人としての打ち解けた表情に戻っていた。

「……クローディア」
「ん?」

真剣な瞳に見つめられてそのまま見返すと、首に革ひもの感触。

「貴方の旅が恙無く進むことを祈っている」

胸元に垂らされたのは親指の爪程の小さな石。
祈りの言葉を石に込めたのか、続けてリーラ特有の言語が微かに唇から零れそのまま石に口付けると一瞬だけ輝いて翡翠のような宝石の姿に変わった。

「……守りの石だ、肌身離さず持っていてくれ」
「族長自らかけてくれるなんて光栄だな」
「言っておくが、我の知らない旅先で不慮の事故に巻き込まれてある日枕元に立たれても迷惑だからというだけだ」
「ヤメテそんな物騒な想像」
「……無事でいて」

最後の言葉は掠れて聞き取りづらかったが、普段の気丈な彼女とは違ったその声は、切なる願いは、クローディアにしっかりと届いた。



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