それは至上の | ナノ

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「今の貴方達に相応しい部屋だ」と言うので牢獄かと思ったが、通されたのは予想に反して清潔に整えられた一室だった。
むしろスイートルーム並の広さで、寝具は昨晩泊った所に比べてかなりふかふかしている。
これまた座り心地のいいソファに身を任せたクローディアと、窓辺の日当たりのいいテーブルに寝そべるキアラは困惑しながらも束の間の休息を堪能していた。

「しっかしあれが森の首族長ねー。美人だけどきっついしお堅そうだな。俺様はもっとこう、つっかかってくるくらい威勢のいいのが好み」
「心配ないキアラ、向こうもきっとお前のこと範囲外だと思ってる」
「おいそれ失礼だろ!!」

毛並みを逆立てて御立腹な様子を表す猫を物ともせず、備え付けのティーポットで淹れた紅茶を楽しみながら先程途中になっていた朝食の続きを再開させる。

「アミールはああ見えてとても優しい。多少物言いはキツく感じるがそれも言葉が真っ直ぐなだけだ…いい子だよ」
「その“いい子”ちゃんに、お前は今から城に連れ戻されるわけだな」
「う、…流石にここからは難しいが道中でなんとか逃げるぞキアラ」
「まぁ、護送中が一番無難だな。ちゃんと作戦練っとかねーとまた振り出しだぜ」
「大丈夫だ問題ない。まずはキアラ、お前が奴らの前に駆けだす」
「囮か、まぁしょうがねー」
「そしてその肉球と愛くるしい仕草で奴らを魅了している間にオレは飛んで逃げる」
「…わかった、お前ちょっと疲れてんな、少し休んどけ。そんで脳みそ回復させろ」
「オレは至って真面目だ正常だ」
「じゃあ一つだけ言っておくが、俺様の肉球は確かに極上だがそこまで万能じゃねえし、奴ら全員が肉球マニアならその作戦でもいいが…俺様のこの素晴らしき肢体はそれだけで国宝級の美貌だが奴らさっき俺様の懇親の一撃すり寄りより小妖精達にのほほんとした視線送ってたアホだからな」
「一つじゃなくて二つだな」
「…そうね」

太陽はだいぶ高い位置まで昇っていることからしておそらくは昼頃だろうかと、指についたパン屑をちろりと舐め取りながら窓の外を見上げていると、ノックと共にアミールが数人引き連れてやってきた。
もう行くのかと腰を上げれば手で制される。
アミールの合図で入って来た女性のリーラがしずしずとソファに布を数枚置く。
もう一人は湯気がたつ皿をこれまた中身がこぼれないよう丁寧な所作で運びこみ、クローディアの目の前のテーブルに並べ始めた。

「?」
「服と食事を用意した」
「は?」
「精々十分な食事を摂って体力を回復させる事だ…はっきり言って今の貴方などひと捻りで地に伏せさせる事が出来る。それと別に貴方達の為ではないが、そのみすぼらしい服ではこの部屋が汚れると思って用意させた。特にこれといって高価なものでもないが、その程度で十分だろう?肉球を探し求める旅人キアラ・キアリーの服装としては、な」
「え…アミール」
「ふん」

真意を問う前に足早に去って行く背中を茫然と見る。
心なし口調が早いそれは、ぶっきらぼうで吐き捨てるように言われても、

「あー…俺にはどうも、精をつけて清潔な服に着替えて早く逃げろとしか聞こえなかったんだが」
「…オレも」

放心状態で扉を1人と1匹で見る。

「きつくも堅くもねぇな…訂正するわ、あのねーちゃん、ツンデレだ」
「…言ったろ、アミールはいい子なんだ」

まだ拍子抜けした感が拭えないが、ほのかに香ってくるおいしそうなスープについ2人の顔が綻んだ。



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