それは至上の | ナノ

 5

 案内されたのは魔力によって閉ざされた場所、言わば森の一族【リーラ】しか入れないようになっている所だった。
一歩街道からそれて森に入り込み、大きな樹の割れ目をくぐったかと思えば拓けた場所に辿り着いていた。
木漏れ日が優しく降り注ぐそこは、逞しく大地に根差す樹に囲まれ、ふわふわと小妖精達が木々の間を飛び交っている。
その中でも一際太く生気に充ち溢れた樹まで案内された2人を待っていたのは、森の一族の長である妖精だった。
艶やかな金色は波打ち、木漏れ日差す森を連想させる明るい緑の瞳、感情を表さない薄い唇、身にまとうシルクの服にも負けない白い肌。
人ではない美しさをもった女性だった。
頬に影ができるほどに長い睫毛がゆっくりと動いて、武装した妖精達に伴われてきたクローディアを一瞥してから、鈴を転がすようなその声に感情をのせることなく話す。

「イメチェンでもなされたか、クローディア殿」
「…アミール」
「それとも世を忍ぶ仮の姿のつもりか?今後の為にアドバイスしておこう、髪型と色を変えただけで変装した気になるとは浅薄ぞ」
「ぐっさぐさくるな、この美人ねえちゃん」
「アミール、その、お前相変わらず歯に衣着せん物言いだな。クローディアちょっとブロークンハートだよ」
「……」
「わかった、アミール。お前ら一族はもう少しツッコミの腕を磨くべきだ」

何故かコントのようになってしまった掛け合いに嘆息したアミールは、戦士達を視線で下がらせて幾分視線を尖らせる。

「己の状況が分かっていないようだな、クローディア」

固い声は怒りからというよりは、困惑からきているのかもしれない。
クローディアと彼女はもう何度も神殿で会ってきた仲であるから、この厳しい顔つきの下の感情はある程度読み取れる。

「城から姿を消したお前を探すのに、騎士達はもちろん我らネーデルフィリアにも協力の申請が神殿を通して来たのだぞ」
「それはそれは…かなり大袈裟な事を仕出かしてしまったようだな」

ネーデルフィリアとは、いわゆる異種族【フィリア】の代表格それぞれの族長の集まりであり、彼らの中心となって人との架け橋役を担っていたのがクローディアだ。
年に数回の定例会以外は、災害や魔物の出現等で手を借りたり逆に種族同士の争いの調停をするくらいで、それも頻度は少ない。
つまり彼らを集めて何かを要請するという事は、それこそここ最近の【歪み】関連のように国の存亡に関わるくらい重要な時くらいなのだ。
それをたかが己の家出くらいで…なんてクローディアは呆れつつ誰がこのような血迷った事をしたのかと、脳内で自分がいなくて焦ってるであろう神殿関係者に想いを馳せた。

(頭に血が上っていたからといって、やはり書置きくらい残して来た方がよかったか?)

「クローディア、我は真面目な話をしている」
「オレも至って真面目だ。無責任かもしれないが、もうオレにあそこでできることなど無いんだ。戻る気はない」

そう、たとえ事がネーデルフィリアに召集をかけるくらい重大になってようと、はいそうですかと後戻りする程クローディアとて軽い覚悟はしていないつもりであった。

「本気、なのか」
「そうじゃないとここまで来ないよ」

じっと明るい緑に見つめられる。
数瞬ではあるが、こちらの思考までも見通すようなそんな眼差しに曝されつつもそれでも視線を逸らさないでいれば、諦めたように外したのは女族長が先だった。

「…だからと言って我らもこのまま街道に貴方を戻すわけにはいかない」

気難しそうにそう言い残したアミールは、計算してはいないだろうに優雅に裾を翻して背後にそびえる大樹の向こうへとクローディア達に付いてくるよう促して歩いて行った。




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