それは至上の | ナノ

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 ノックの音と共に静かに名を名乗った相手に、入室の許可を促す。
無駄のない身のこなしで入って来た男は躓いて現状の報告を簡潔にした。

「まだ見つからないのか」

硬質な響きが、主の落胆と静かな怒りを如実に表している。

「は。申し訳ありません。只今城下街を隈なく探索しているのですが、それらしい情報がなく…」
「早く見つけろ、あれはまだ怪我が完全に癒えたわけじゃないんだ」
「仰せのままに。しかし殿下、あの御方は翼を持っていらっしゃいます。もし既にこのハイラルを出ておられるとなると…」
「そうだな…全騎士団並びに州堺を警備する兵士に通達を。街から出る旅人への検問を布かせろ」
「御意」

綺麗に拳を胸に当てた騎士を見据えて、思考にふける。
目の前の優秀な騎士以外にも手持ちのカードはいくつかある、しかし、相手を考えると布石はいくつあっても足りないだろう。

「まぁ、わざわざご丁寧に街道を通ってくれる確率は低いだろうがな…」

それでも、手を打っておくにこした事はないか、と王子は立ち上がって扉へと足を進めた。
何処へ向かうのか問う騎士に、着いてくるよう促して。
王子という身分ゆえ、特に先日の【歪み】発現から何かしら行動する時には護衛をつけろと身を案じる側近達の意見を已む無くのんでいるからだ。

「会っておきたい人がいる」

それ以上答える気はない主の意思を悟ったのか、騎士は黙って付き従った。

夜も更けたこの時刻、しかし事は急を要するのだと多少の無茶を通させる腹積もりで回廊を進む王子。
彼らが歩くその回廊も主塔も、窓から見下ろせる今は面影も無く壊れた城とは違い完璧な美しさを保っている。
それは命がけで彼の守護神が守ったゆえもの。
王族がいる主塔だけでもと自らの体を盾にし、浸食する“穢れ”を退け守り抜いた証。
強すぎる“穢れ”に倒れていく者の中、一人凛として立ち向かう背中が王子の脳裏にこびりついていた。
普段は滅多に見せない純白の翼を精一杯広げ、傷つき舞い散る羽根が視界を遮っていたあの光景が。




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